1901 それからイエスは、エリコに入って、町をお通りになった。
1902 ここには、ザアカイという人がいたが、彼は取税人のかしらで、金持ちであった。
1903 彼は、イエスがどんな方か見ようとしたが、背が低かったので、群衆のために見ることができなかった。
1904 それで、イエスを見るために、前方に走り出て、いちじく桑の木に登った。ちょうどイエスがそこを通り過ぎようとしておられたからである。
1905 イエスは、ちょうどそこに来られて、上を見上げて彼に言われた。「ザアカイ。急いで降りて来なさい。きょうは、あなたの家に泊まることにしてあるから。」
1906 ザアカイは、急いで降りて来て、そして大喜びでイエスを迎えた。
1907 これを見て、みなは、「あの方は罪人のところに行って客となられた」と言ってつぶやいた。
1908 ところがザアカイは立って、主に言った。「主よ。ご覧ください。私の財産の半分を貧しい人たちに施します。また、だれからでも、私がだまし取った物は、四倍にして返します。」
1909 イエスは、彼に言われた。「きょう、救いがこの家に来ました。この人もアブラハムの子なのですから。
1910 人の子は、失われた人を捜して救うために来たのです。」
1911 人々がこれらのことに耳を傾けているとき、イエスは、続けて一つのたとえを話された。それは、イエスがエルサレムに近づいておられ、そのため人々は神の国がすぐにでも現れるように思っていたからである。
1912 それで、イエスはこう言われた。「ある身分の高い人が、遠い国に行った。王位を受けて帰るためであった。
1913 彼は自分の十人のしもべを呼んで、十ミナを与え、彼らに言った。『私が帰るまで、これで商売しなさい。』
1914 しかし、その国民たちは、彼を憎んでいたので、あとから使いをやり、『この人に、私たちの王にはなってもらいたくありません』と言った。
1915 さて、彼が王位を受けて帰って来たとき、金を与えておいたしもべたちがどんな商売をしたかを知ろうと思い、彼らを呼び出すように言いつけた。
1916 さて、最初の者が現れて言った。『ご主人さま。あなたの一ミナで、十ミナをもうけました。』
1917 主人は彼に言った。『よくやった。良いしもべだ。あなたはほんの小さな事にも忠実だったから、十の町を支配する者になりなさい。』
1918 二番目の者が来て言った。『ご主人さま。あなたの一ミナで、五ミナをもうけました。』
1919 主人はこの者にも言った。『あなたも五つの町を治めなさい。』
1920 もうひとりが来て言った。『ご主人さま。さあ、ここにあなたの一ミナがございます。私はふろしきに包んでしまっておきました。
1921 あなたは計算の細かい、きびしい方ですから、恐ろしゅうございました。あなたはお預けにならなかったものをも取り立て、お蒔きにならなかったものをも刈り取る方ですから。』
1922 主人はそのしもべに言った。『悪いしもべだ。私はあなたのことばによって、あなたをさばこう。あなたは、私が預けなかったものを取り立て、蒔かなかったものを刈り取るきびしい人間だと知っていた、というのか。
1923 だったら、なぜ私の金を銀行に預けておかなかったのか。そうすれば私は帰って来たときに、それを利息といっしょに受け取れたはずだ。』
1924 そして、そばに立っていた者たちに言った。『その一ミナを彼から取り上げて、十ミナ持っている人にやりなさい。』
1925 すると彼らは、『ご主人さま。その人は十ミナも持っています』と言った。
1926 彼は言った。『あなたがたに言うが、だれでも持っている者は、さらに与えられ、持たない者からは、持っている物までも取り上げられるのです。
1927 ただ、私が王になるのを望まなかったこの敵どもは、みなここに連れて来て、私の目の前で殺してしまえ。』」
1928 これらのことを話して後、イエスは、さらに進んで、エルサレムへと上って行かれた。
1929 オリーブという山のふもとのベテパゲとベタニヤに近づかれたとき、イエスはふたりの弟子を使いに出して、
1930 言われた。「向こうの村に行きなさい。そこに入ると、まだだれも乗ったことのない、ろばの子がつないであるのに気がつくでしょう。それをほどいて連れて来なさい。
1931 もし、『なぜ、ほどくのか』と尋ねる人があったら、こう言いなさい。『主がお入用なのです。』」
1932 使いに出されたふたりが行って見ると、イエスが話されたとおりであった。
1933 彼らがろばの子をほどいていると、その持ち主が、「なぜ、このろばの子をほどくのか」と彼らに言った。
1934 弟子たちは、「主がお入用なのです」と言った。
1935 そしてふたりは、それをイエスのもとに連れて来た。そして、そのろばの子の上に自分たちの上着を敷いて、イエスをお乗せした。
1936 イエスが進んで行かれると、人々は道に自分たちの上着を敷いた。
1937 イエスがすでにオリーブ山のふもとに近づかれたとき、弟子たちの群れはみな、自分たちの見たすべての力あるわざのことで、喜んで大声に神を賛美し始め、
1938 こう言った。「祝福あれ。主の御名によって来られる王に。天には平和。栄光は、いと高き所に。」
1939 するとパリサイ人のうちのある者たちが、群衆の中から、イエスに向かって、「先生。お弟子たちをしかってください」と言った。
1940 イエスは答えて言われた。「わたしは、あなたがたに言います。もしこの人たちが黙れば、石が叫びます。」
1941 エルサレムに近くなったころ、都を見られたイエスは、その都のために泣いて、
1942 言われた。「おまえも、もし、この日のうちに、平和のことを知っていたのなら。しかし今は、そのことがおまえの目から隠されている。
1943 やがておまえの敵が、おまえに対して塁を築き、回りを取り巻き、四方から攻め寄せ、
1944 そしておまえとその中の子どもたちを地にたたきつけ、おまえの中で、一つの石もほかの石の上に積まれたままでは残されない日が、やって来る。それはおまえが、神の訪れの時を知らなかったからだ。」
1945 宮に入られたイエスは、商売人たちを追い出し始め、
1946 こう言われた。「『わたしの家は、祈りの家でなければならない』と書いてある。それなのに、あなたがたはそれを強盗の巣にした。」
1947 イエスは毎日、宮で教えておられた。祭司長、律法学者、民のおもだった者たちは、イエスを殺そうとねらっていたが、
1948 どうしてよいかわからなかった。民衆がみな、熱心にイエスの話に耳を傾けていたからである。
2001 イエスは宮で民衆を教え、福音を宣べ伝えておられたが、ある日、祭司長、律法学者たちが、長老たちといっしょにイエスに立ち向かって、
2002 イエスに言った。「何の権威によって、これらのことをしておられるのですか。あなたにその権威を授けたのはだれですか。それを言ってください。」
2003 そこで答えて言われた。「わたしも一言尋ねますから、それに答えなさい。
2004 ヨハネのバプテスマは、天から来たのですか、人から出たのですか。」
2005 すると彼らは、こう言って、互いに論じ合った。「もし、天から、と言えば、それならなぜ、彼を信じなかったか、と言うだろう。
2006 しかし、もし、人から、と言えば、民衆がみなで私たちを石で打ち殺すだろう。ヨハネを預言者と信じているのだから。」
2007 そこで、「どこからか知りません」と答えた。
2008 するとイエスは、「わたしも、何の権威によってこれらのことをするのか、あなたがたに話すまい」と言われた。
2009 また、イエスは、民衆にこのようなたとえを話された。「ある人がぶどう園を造り、それを農夫たちに貸して、長い旅に出た。
2010 そして季節になったので、ぶどう園の収穫の分けまえをもらうために、農夫たちのところへひとりのしもべを遣わした。ところが、農夫たちは、そのしもべを袋だたきにし、何も持たせないで送り帰した。
2011 そこで、別のしもべを遣わしたが、彼らは、そのしもべも袋だたきにし、はずかしめたうえで、何も持たせないで送り帰した。
2012 彼はさらに三人目のしもべをやったが、彼らは、このしもべにも傷を負わせて追い出した。
2013 ぶどう園の主人は言った。『どうしたものか。よし、愛する息子を送ろう。彼らも、この子はたぶん敬ってくれるだろう。』
2014 ところが、農夫たちはその息子を見て、議論しながら言った。『あれはあと取りだ。あれを殺そうではないか。そうすれば、財産はこちらのものだ。』
2015 そして、彼をぶどう園の外に追い出して、殺してしまった。こうなると、ぶどう園の主人は、どうするでしょう。
2016 彼は戻って来て、この農夫どもを打ち滅ぼし、ぶどう園をほかの人たちに与えてしまいます。」これを聞いた民衆は、「そんなことがあってはなりません」と言った。
2017 イエスは、彼らを見つめて言われた。「では、『家を建てる者たちの見捨てた石、それが礎の石となった。』と書いてあるのは、何のことでしょう。
2018 この石の上に落ちれば、だれでも粉々に砕け、またこの石が人の上に落ちれば、その人を粉みじんに飛び散らしてしまうのです。」
2019 律法学者、祭司長たちは、イエスが自分たちをさしてこのたとえを話されたと気づいたので、この際イエスに手をかけて捕らえようとしたが、やはり民衆を恐れた。
2020 さて、機会をねらっていた彼らは、義人を装った間者を送り、イエスのことばを取り上げて、総督の支配と権威にイエスを引き渡そう、と計った。
2021 その間者たちは、イエスに質問して言った。「先生。私たちは、あなたがお話しになり、お教えになることは正しく、またあなたは分け隔てなどせず、真理に基づいて神の道を教えておられることを知っています。
2022 ところで、私たちが、カイザルに税金を納めることは、律法にかなっていることでしょうか。かなっていないことでしょうか。」
2023 イエスはそのたくらみを見抜いて彼らに言われた。
2024 「デナリ銀貨をわたしに見せなさい。これはだれの肖像ですか。だれの銘ですか。」彼らは、「カイザルのです」と言った。
2025 すると彼らに言われた。「では、カイザルのものはカイザルに返しなさい。そして神のものは神に返しなさい。」
2026 彼らは、民衆の前でイエスのことばじりをつかむことができず、お答えに驚嘆して黙ってしまった。
2027 ところが、復活があることを否定するサドカイ人のある者たちが、イエスのところに来て、質問して、
2028 こう言った。「先生。モーセは私たちのためにこう書いています。『もし、ある人の兄が妻をめとって死に、しかも子がなかった場合は、その弟はその女を妻にして、兄のための子をもうけなければならない。』
2029 ところで、七人の兄弟がいました。長男は妻をめとりましたが、子どもがなくて死にました。
2030 次男も、
2031 三男もその女をめとり、七人とも同じようにして、子どもを残さずに死にました。
2032 あとで、その女も死にました。
2033 すると復活の際、その女はだれの妻になるでしょうか。七人ともその女を妻としたのですが。」
2034 イエスは彼らに言われた。「この世の子らは、めとったり、とついだりするが、
2035 次の世に入るのにふさわしく、死人の中から復活するのにふさわしい、と認められる人たちは、めとることも、とつぐこともありません。
2036 彼らはもう死ぬことができないからです。彼らは御使いのようであり、また、復活の子として神の子どもだからです。
2037 それに、死人がよみがえることについては、モーセも柴の個所で、主を、『アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神』と呼んで、このことを示しました。
2038 神は死んだ者の神ではありません。生きている者の神です。というのは、神に対しては、みなが生きているからです。」
2039 律法学者のうちのある者たちが答えて、「先生。りっぱなお答えです」と言った。
2040 彼らはもうそれ以上何も質問する勇気がなかった。
2041 すると、イエスが彼らに言われた。「どうして人々は、キリストをダビデの子と言うのですか。
2042 ダビデ自身が詩篇の中でこう言っています。『主は私の主に言われた。
2043 「わたしが、あなたの敵をあなたの足台とする時まで、わたしの右の座に着いていなさい。」』
2044 こういうわけで、ダビデがキリストを主と呼んでいるのに、どうしてキリストがダビデの子でしょう。」
2045 また、民衆がみな耳を傾けているときに、イエスは弟子たちにこう言われた。
2046 「律法学者たちには気をつけなさい。彼らは、長い衣をまとって歩き回ったり、広場であいさつされたりすることが好きで、また会堂の上席や宴会の上座が好きです。
2047 また、やもめの家を食いつぶし、見えを飾るために長い祈りをします。こういう人たちは人一倍きびしい罰を受けるのです。」
2101 さてイエスが、目を上げてご覧になると、金持ちたちが献金箱に献金を投げ入れていた。
2102 また、ある貧しいやもめが、そこにレプタ銅貨二つを投げ入れているのをご覧になった。
2103 それでイエスは言われた。「わたしは真実をあなたがたに告げます。この貧しいやもめは、どの人よりもたくさん投げ入れました。
2104 みなは、あり余る中から献金を投げ入れたのに、この女は、乏しい中から、持っていた生活費の全部を投げ入れたからです。」
2105 宮がすばらしい石や奉納物で飾ってあると話していた人々があった。するとイエスはこう言われた。
2106 「あなたがたの見ているこれらの物について言えば、石がくずされずに積まれたまま残ることのない日がやって来ます。」
2107 彼らは、イエスに質問して言った。「先生。それでは、これらのことは、いつ起こるのでしょう。これらのことが起こるときは、どんな前兆があるのでしょう。」
2108 イエスは言われた。「惑わされないように気をつけなさい。わたしの名を名のる者が大ぜい現れ、『私がそれだ』とか『時は近づいた』とか言います。そんな人々のあとについて行ってはなりません。
2109 戦争や暴動のことを聞いても、こわがってはいけません。それは、初めに必ず起こることです。だが、終わりは、すぐには来ません。」
2110 それから、イエスは彼らに言われた。「民族は民族に、国は国に敵対して立ち上がり、
2111 大地震があり、方々に疫病やききんが起こり、恐ろしいことや天からのすさまじい前兆が現れます。
2112 しかし、これらのすべてのことの前に、人々はあなたがたを捕らえて迫害し、会堂や牢に引き渡し、わたしの名のために、あなたがたを王たちや総督たちの前に引き出すでしょう。
2113 それはあなたがたのあかしをする機会となります。
2114 それで、どう弁明するかは、あらかじめ考えないことに、心を定めておきなさい。
2115 どんな反対者も、反論もできず、反証もできないようなことばと知恵を、わたしがあなたがたに与えます。
2116 しかしあなたがたは、両親、兄弟、親族、友人たちにまで裏切られます。中には殺される者もあり、
2117 わたしの名のために、みなの者に憎まれます。
2118 しかし、あなたがたの髪の毛一筋も失われることはありません。
2119 あなたがたは、忍耐によって、自分のいのちを勝ち取ることができます。
2120 しかし、エルサレムが軍隊に囲まれるのを見たら、そのときには、その滅亡が近づいたことを悟りなさい。
2121 そのとき、ユダヤにいる人々は山へ逃げなさい。都の中にいる人々は、そこから立ちのきなさい。いなかにいる者たちは、都に入ってはいけません。
2122 これは、書かれているすべてのことが成就する報復の日だからです。
2123 その日、哀れなのは身重の女と乳飲み子を持つ女です。この地に大きな苦難が臨み、この民に御怒りが臨むからです。
2124 人々は、剣の刃に倒れ、捕虜となってあらゆる国に連れて行かれ、異邦人の時の終わるまで、エルサレムは異邦人に踏み荒らされます。
2125 そして、日と月と星には、前兆が現れ、地上では、諸国の民が、海と波が荒れどよめくために不安に陥って悩み、
2126 人々は、その住むすべての所を襲おうとしていることを予想して、恐ろしさのあまり気を失います。天の万象が揺り動かされるからです。
2127 そのとき、人々は、人の子が力と輝かしい栄光を帯びて雲に乗って来るのを見るのです。
2128 これらのことが起こり始めたなら、からだをまっすぐにし、頭を上に上げなさい。贖いが近づいたのです。」
2129 それからイエスは、人々にたとえを話された。「いちじくの木や、すべての木を見なさい。
2130 木の芽が出ると、それを見て夏の近いことがわかります。
2131 そのように、これらのことが起こるのを見たら、神の国は近いと知りなさい。
2132 まことに、あなたがたに告げます。すべてのことが起こってしまうまでは、この時代は過ぎ去りません。
2133 この天地は滅びます。しかし、わたしのことばは決して滅びることがありません。
2134 あなたがたの心が、放蕩や深酒やこの世の煩いのために沈み込んでいるところに、その日がわなのように、突然あなたがたに臨むことのないように、よく気をつけていなさい。
2135 その日は、全地の表に住むすべての人に臨むからです。
2136 しかし、あなたがたは、やがて起ころうとしているこれらすべてのことからのがれ、人の子の前に立つことができるように、いつも油断せずに祈っていなさい。」
2137 さてイエスは、昼は宮で教え、夜はいつも外に出てオリーブという山で過ごされた。
2138 民衆はみな朝早く起きて、教えを聞こうとして、宮におられるイエスのもとに集まって来た。