ルカの福音書

1301 ちょうどそのとき、ある人たちがやって来て、イエスに報告した。ピラトがガリラヤ人たちの血をガリラヤ人たちのささげるいけにえに混ぜたというのである。
1302 イエスは彼らに答えて言われた。「そのガリラヤ人たちがそのような災難を受けたから、ほかのどのガリラヤ人よりも罪深い人たちだったとでも思うのですか。
1303 そうではない。わたしはあなたがたに言います。あなたがたも悔い改めないなら、みな同じように滅びます。
1304 また、シロアムの塔が倒れ落ちて死んだあの十八人は、エルサレムに住んでいるだれよりも罪深い人たちだったとでも思うのですか。
1305 そうではない。わたしはあなたがたに言います。あなたがたも悔い改めないなら、みな同じように滅びます。」
1306 イエスはこのようなたとえを話された。「ある人が、ぶどう園にいちじくの木を植えておいた。実を取りに来たが、何も見つからなかった。
1307 そこで、ぶどう園の番人に言った。『見なさい。三年もの間、やって来ては、このいちじくの実のなるのを待っているのに、なっていたためしがない。これを切り倒してしまいなさい。何のために土地をふさいでいるのですか。』
1308 番人は答えて言った。『ご主人。どうか、ことし一年そのままにしてやってください。木の回りを掘って、肥やしをやってみますから。
1309 もしそれで来年、実を結べばよし、それでもだめなら、切り倒してください。』」
1310 イエスは安息日に、ある会堂で教えておられた。
1311 すると、そこに十八年も病の霊につかれ、腰が曲がって、全然伸ばすことのできない女がいた。
1312 イエスは、その女を見て、呼び寄せ、「あなたの病気はいやされました」と言って、
1313 手を置かれると、女はたちどころに腰が伸びて、神をあがめた。
1314 すると、それを見た会堂管理者は、イエスが安息日にいやされたのを憤って、群衆に言った。「働いてよい日は六日です。その間に来て直してもらうがよい。安息日には、いけないのです。」
1315 しかし、主は彼に答えて言われた。「偽善者たち。あなたがたは、安息日に、牛やろばを小屋からほどき、水を飲ませに連れて行くではありませんか。
1316 この女はアブラハムの娘なのです。それを十八年もの間サタンが縛っていたのです。安息日だからといってこの束縛を解いてやってはいけないのですか。」
1317 こう話されると、反対していた者たちはみな、恥じ入り、群衆はみな、イエスのなさったすべての輝かしいみわざを喜んだ。
1318 そこで、イエスはこう言われた。「神の国は、何に似ているでしょう。何に比べたらよいでしょう。
1319 それは、からし種のようなものです。それを取って庭に蒔いたところ、生長して木になり、空の鳥が枝に巣を作りました。」
1320 またこう言われた。「神の国を何に比べましょう。
1321 パン種のようなものです。女がパン種を取って、三サトンの粉に混ぜたところ、全体がふくれました。」
1322 イエスは、町々村々を次々に教えながら通り、エルサレムへの旅を続けられた。
1323 すると、「主よ。救われる者は少ないのですか」と言う人があった。イエスは、人々に言われた。
1324 「努力して狭い門から入りなさい。なぜなら、あなたがたに言いますが、入ろうとしても、入れなくなる人が多いのですから。
1325 家の主人が、立ち上がって、戸をしめてしまってからでは、外に立って、『ご主人さま。あけてください』と言って、戸をいくらたたいても、もう主人は、『あなたがたがどこの者か、私は知らない』と答えるでしょう。
1326 すると、あなたがたは、こう言い始めるでしょう。『私たちは、ごいっしょに、食べたり飲んだりいたしましたし、私たちの大通りで教えていただきました。』
1327 だが、主人はこう言うでしょう。『私はあなたがたがどこの者だか知りません。不正を行う者たち。みな出て行きなさい。』
1328 神の国にアブラハムやイサクやヤコブや、すべての預言者たちが入っているのに、あなたがたは外に投げ出されることになったとき、そこで泣き叫んだり、歯ぎしりしたりするのです。
1329 人々は、東からも西からも、また南からも北からも来て、神の国で食卓に着きます。
1330 いいですか、今しんがりの者があとで先頭になり、いま先頭の者がしんがりになるのです。」
1331 ちょうどそのとき、何人かのパリサイ人が近寄って来て、イエスに言った。「ここから出てほかの所へ行きなさい。ヘロデがあなたを殺そうと思っています。」
1332 イエスは言われた。「行って、あの狐にこう言いなさい。『よく見なさい。わたしは、きょうと、あすとは、悪霊どもを追い出し、病人をいやし、三日目に全うされます。
1333 だが、わたしは、きょうもあすも次の日も進んで行かなければなりません。なぜなら、預言者がエルサレム以外の所で死ぬことはありえないからです。』
1334 ああ、エルサレム、エルサレム。預言者たちを殺し、自分に遣わされた人たちを石で打つ者、わたしは、めんどりがひなを翼の下にかばうように、あなたの子らを幾たび集めようとしたことか。それなのに、あなたがたはそれを好まなかった。
1335 見なさい。あなたがたの家は荒れ果てたままに残される。わたしはあなたがたに言います。『祝福あれ。主の御名によって来られる方に』とあなたがたの言うときが来るまでは、あなたがたは決してわたしを見ることができません。」
1401 ある安息日に、食事をしようとして、パリサイ派のある指導者の家に入られたとき、みんながじっとイエスを見つめていた。
1402 そこには、イエスの真っ正面に、水腫をわずらっている人がいた。
1403 イエスは、律法の専門家、パリサイ人たちに、「安息日に病気を直すことは正しいことですか、それともよくないことですか」と言われた。
1404 しかし、彼らは黙っていた。それで、イエスはその人を抱いていやし、帰された。
1405 それから、彼らに言われた。「自分の息子や牛が井戸に落ちたのに、安息日だからといって、すぐに引き上げてやらない者があなたがたのうちにいるでしょうか。」
1406 彼らは答えることができなかった。
1407 招かれた人々が上座を選んでいる様子に気づいておられたイエスは、彼らにたとえを話された。
1408 「婚礼の披露宴に招かれたときには、上座にすわってはいけません。あなたより身分の高い人が、招かれているかもしれないし、
1409 あなたやその人を招いた人が来て、『この人に席を譲ってください』とあなたに言うなら、そのときあなたは恥をかいて、末席に着かなければならないでしょう。
1410 招かれるようなことがあって、行ったなら、末席に着きなさい。そうしたら、あなたを招いた人が来て、『どうぞもっと上席にお進みください』と言うでしょう。そのときは、満座の中で面目を施すことになります。
1411 なぜなら、だれでも自分を高くする者は低くされ、自分を低くする者は高くされるからです。」
1412 また、イエスは、自分を招いてくれた人にも、こう話された。「昼食や夕食のふるまいをするなら、友人、兄弟、親族、近所の金持ちなどを呼んではいけません。でないと、今度は彼らがあなたを招いて、お返しすることになるからです。
1413 祝宴を催す場合には、むしろ、貧しい者、からだの不自由な者、足のなえた者、盲人たちを招きなさい。
1414 その人たちはお返しができないので、あなたは幸いです。義人の復活のときお返しを受けるからです。」
1415 イエスといっしょに食卓に着いていた客のひとりはこれを聞いて、イエスに、「神の国で食事する人は、何と幸いなことでしょう」と言った。
1416 するとイエスはこう言われた。「ある人が盛大な宴会を催し、大ぜいの人を招いた。
1417 宴会の時刻になったのでしもべをやり、招いておいた人々に、『さあ、おいでください。もうすっかり、用意ができましたから』と言わせた。
1418 ところが、みな同じように断り始めた。最初の人はこう言った。『畑を買ったので、どうしても見に出かけなければなりません。すみませんが、お断りさせていただきます。』
1419 もうひとりはこう言った。『五くびきの牛を買ったので、それをためしに行くところです。すみませんが、お断りさせていただきます。』
1420 また、別の人はこう言った。『結婚したので、行くことができません。』
1421 しもべは帰って、このことを主人に報告した。すると、おこった主人は、そのしもべに言った。『急いで町の大通りや路地に出て行って、貧しい者や、からだの不自由な者や、盲人や、足のなえた者たちをここに連れて来なさい。』
1422 しもべは言った。『ご主人さま。仰せのとおりにいたしました。でも、まだ席があります。』
1423 主人は言った。『街道や垣根のところに出かけて行って、この家がいっぱいになるように、無理にでも人々を連れて来なさい。
1424 言っておくが、あの招待されていた人たちの中で、私の食事を味わう者は、ひとりもいないのです。』」
1425 さて、大ぜいの群衆が、イエスといっしょに歩いていたが、イエスは彼らのほうに向いて言われた。
1426 「わたしのもとに来て、自分の父、母、妻、子、兄弟、姉妹、そのうえ自分のいのちまでも憎まない者は、わたしの弟子になることができません。
1427 自分の十字架を負ってわたしについて来ない者は、わたしの弟子になることはできません。
1428 塔を築こうとするとき、まずすわって、完成に十分な金があるかどうか、その費用を計算しない者が、あなたがたのうちにひとりでもあるでしょうか。
1429 基礎を築いただけで完成できなかったら、見ていた人はみな彼をあざ笑って、
1430 『この人は、建て始めはしたものの、完成できなかった』と言うでしょう。
1431 また、どんな王でも、ほかの王と戦いを交えようとするときは、二万人を引き連れて向かって来る敵を、一万人で迎え撃つことができるかどうかを、まずすわって、考えずにいられましょうか。
1432 もし見込みがなければ、敵がまだ遠くに離れている間に、使者を送って講和を求めるでしょう。
1433 そういうわけで、あなたがたはだれでも、自分の財産全部を捨てないでは、わたしの弟子になることはできません。
1434 ですから、塩は良いものですが、もしその塩が塩けをなくしたら、何によってそれに味をつけるのでしょうか。
1435 土地にも肥やしにも役立たず、外に投げ捨てられてしまいます。聞く耳のある人は聞きなさい。」
1501 さて、取税人、罪人たちがみな、イエスの話を聞こうとして、みもとに近寄って来た。
1502 すると、パリサイ人、律法学者たちは、つぶやいてこう言った。「この人は、罪人たちを受け入れて、食事までいっしょにする。」
1503 そこでイエスは、彼らにこのようなたとえを話された。
1504 「あなたがたのうちに羊を百匹持っている人がいて、そのうちの一匹をなくしたら、その人は九十九匹を野原に残して、いなくなった一匹を見つけるまで捜し歩かないでしょうか。
1505 見つけたら、大喜びでその羊をかついで、
1506 帰って来て、友だちや近所の人たちを呼び集め、『いなくなった羊を見つけましたから、いっしょに喜んでください』と言うでしょう。
1507 あなたがたに言いますが、それと同じように、ひとりの罪人が悔い改めるなら、悔い改める必要のない九十九人の正しい人にまさる喜びが天にあるのです。
1508 また、女の人が銀貨を十枚持っていて、もしその一枚をなくしたら、あかりをつけ、家を掃いて、見つけるまで念入りに捜さないでしょうか。
1509 見つけたら、友だちや近所の女たちを呼び集めて、『なくした銀貨を見つけましたから、いっしょに喜んでください』と言うでしょう。
1510 あなたがたに言いますが、それと同じように、ひとりの罪人が悔い改めるなら、神の御使いたちに喜びがわき起こるのです。」
1511 またこう話された。「ある人に息子がふたりあった。
1512 弟が父に、『お父さん。私に財産の分け前を下さい』と言った。それで父は、身代をふたりに分けてやった。
1513 それから、幾日もたたぬうちに、弟は、何もかもまとめて遠い国に旅立った。そして、そこで放蕩して湯水のように財産を使ってしまった。
1514 何もかも使い果たしたあとで、その国に大ききんが起こり、彼は食べるにも困り始めた。
1515 それで、その国のある人のもとに身を寄せたところ、その人は彼を畑にやって、豚の世話をさせた。
1516 彼は豚の食べるいなご豆で腹を満たしたいほどであったが、だれひとり彼に与えようとはしなかった。
1517 しかし、我に返ったとき彼は、こう言った。『父のところには、パンのあり余っている雇い人が大ぜいいるではないか。それなのに、私はここで、飢え死にしそうだ。
1518 立って、父のところに行って、こう言おう。「お父さん。私は天に対して罪を犯し、またあなたの前に罪を犯しました。
1519 もう私は、あなたの子と呼ばれる資格はありません。雇い人のひとりにしてください。」』
1520 こうして彼は立ち上がって、自分の父のもとに行った。ところが、まだ家までは遠かったのに、父親は彼を見つけ、かわいそうに思い、走り寄って彼を抱き、口づけした。
1521 息子は言った。『お父さん。私は天に対して罪を犯し、またあなたの前に罪を犯しました。もう私は、あなたの子と呼ばれる資格はありません。』
1522 ところが父親は、しもべたちに言った。『急いで一番良い着物を持って来て、この子に着せなさい。それから、手に指輪をはめさせ、足にくつをはかせなさい。
1523 そして肥えた子牛を引いて来てほふりなさい。食べて祝おうではないか。
1524 この息子は、死んでいたのが生き返り、いなくなっていたのが見つかったのだから。』そして彼らは祝宴を始めた。
1525 ところで、兄息子は畑にいたが、帰って来て家に近づくと、音楽や踊りの音が聞こえて来た。
1526 それで、しもべのひとりを呼んで、これはいったい何事かと尋ねると、
1527 しもべは言った。『弟さんがお帰りになったのです。無事な姿をお迎えしたというので、お父さんが、肥えた子牛をほふらせなさったのです。』
1528 すると、兄はおこって、家に入ろうともしなかった。それで、父が出て来て、いろいろなだめてみた。
1529 しかし兄は父にこう言った。『ご覧なさい。長年の間、私はお父さんに仕え、戒めを破ったことは一度もありません。その私には、友だちと楽しめと言って、子山羊一匹下さったことがありません。
1530 それなのに、遊女におぼれてあなたの身代を食いつぶして帰って来たこのあなたの息子のためには、肥えた子牛をほふらせなさったのですか。』
1531 父は彼に言った。『子よ。おまえはいつも私といっしょにいる。私のものは、全部おまえのものだ。
1532 だがおまえの弟は、死んでいたのが生き返って来たのだ。いなくなっていたのが見つかったのだから、楽しんで喜ぶのは当然ではないか。』」

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