0101 エフライムの山地ラマタイム・ツォフィムに、その名をエルカナというひとりの人がいた。この人はエロハムの子、順次さかのぼって、エリフの子、トフの子、エフライム人ツフの子であった。
0102 エルカナには、ふたりの妻があった。ひとりの妻の名はハンナ、もうひとりの妻の名はペニンナと言った。ペニンナには子どもがあったが、ハンナには子どもがなかった。
0103 この人は自分の町から毎年シロに上って、万軍の【主】を礼拝し、いけにえをささげていた。そこにはエリのふたりの息子、【主】の祭司ホフニとピネハスがいた。
0104 その日になると、エルカナはいけにえをささげ、妻のペニンナ、彼女のすべての息子、娘たちに、それぞれの受ける分を与えた。
0105 しかしハンナには特別の受け分を与えていた。【主】は彼女の胎を閉じておられたが、彼がハンナを愛していたからである。
0106 彼女を憎むペニンナは、【主】がハンナの胎を閉じておられるというので、ハンナが気をもんでいるのに、彼女をひどくいらだたせるようにした。
0107 毎年、このようにして、彼女が【主】の宮に上って行くたびに、ペニンナは彼女をいらだたせた。そのためハンナは泣いて、食事をしようともしなかった。
0108 それで夫エルカナは彼女に言った。「ハンナ。なぜ、泣くのか。どうして、食べないのか。どうして、ふさいでいるのか。あなたにとって、私は十人の息子以上の者ではないのか。」
0109 シロでの食事が終わって、ハンナは立ち上がった。そのとき、祭司エリは、【主】の宮の柱のそばの席にすわっていた。
0110 ハンナの心は痛んでいた。彼女は【主】に祈って、激しく泣いた。
0111 そして誓願を立てて言った。「万軍の【主】よ。もし、あなたが、はしための悩みを顧みて、私を心に留め、このはしためを忘れず、このはしために男の子を授けてくださいますなら、私はその子の一生を【主】におささげします。そして、その子の頭に、かみそりを当てません。」
0112 ハンナが【主】の前で長く祈っている間、エリはその口もとを見守っていた。
0113 ハンナは心のうちで祈っていたので、くちびるが動くだけで、その声は聞こえなかった。それでエリは彼女が酔っているのではないかと思った。
0114 エリは彼女に言った。「いつまで酔っているのか。酔いをさましなさい。」
0115 ハンナは答えて言った。「いいえ、祭司さま。私は心に悩みのある女でございます。ぶどう酒も、お酒も飲んではおりません。私は【主】の前に、私の心を注ぎ出していたのです。
0116 このはしためを、よこしまな女と思わないでください。私はつのる憂いといらだちのため、今まで祈っていたのです。」
0117 エリは答えて言った。「安心して行きなさい。イスラエルの神が、あなたの願ったその願いをかなえてくださるように。」
0118 彼女は、「はしためが、あなたのご好意にあずかることができますように」と言った。それからこの女は帰って食事をした。彼女の顔は、もはや以前のようではなかった。
0119 翌朝早く、彼らは【主】の前で礼拝をし、ラマにある自分たちの家へ帰って行った。エルカナは自分の妻ハンナを知った。【主】は彼女を心に留められた。
0120 日が改まって、ハンナはみごもり、男の子を産んだ。そして「私がこの子を【主】に願ったから」と言って、その名をサムエルと呼んだ。
0121 夫のエルカナは、家族そろって、年ごとのいけにえを【主】にささげ、自分の誓願を果たすために上って行こうとしたが、
0122 ハンナは夫に、「この子が乳離れし、私がこの子を連れて行き、この子が【主】の御顔を拝し、いつまでも、そこにとどまるようになるまでは」と言って、上って行かなかった。
0123 夫のエルカナは彼女に言った。「あなたの良いと思うようにしなさい。この子が乳離れするまで待ちなさい。ただ、【主】のおことばのとおりになるように。」こうしてこの女は、とどまって、その子が乳離れするまで乳を飲ませた。
0124 その子が乳離れしたとき、彼女は雄牛三頭、小麦粉一エパ、ぶどう酒の皮袋一つを携え、その子を連れ上り、シロの【主】の宮に連れて行った。その子は幼かった。
0125 彼らは、雄牛一頭をほふり、その子をエリのところに連れて行った。
0126 ハンナは言った。「おお、祭司さま。あなたは生きておられます。祭司さま。私はかつて、ここのあなたのそばに立って、【主】に祈った女でございます。
0127 この子のために、私は祈ったのです。【主】は私がお願いしたとおり、私の願いをかなえてくださいました。
0128 それで私もまた、この子を【主】にお渡しいたします。この子は一生涯、【主】に渡されたものです。」こうして彼らはそこで【主】を礼拝した。
0201 ハンナは祈って言った。「私の心は【主】を誇り、私の角は【主】によって高く上がります。私の口は敵に向かって大きく開きます。私はあなたの救いを喜ぶからです。
0202 【主】のように聖なる方はありません。あなたに並ぶ者はないからです。私たちの神のような岩はありません。
0203 高ぶって、多くを語ってはなりません。横柄なことばを口から出してはなりません。まことに【主】は、すべてを知る神。そのみわざは確かです。
0204 勇士の弓が砕かれ、弱い者が力を帯び、
0205 食べ飽いた者がパンのために雇われ、飢えていた者が働きをやめ、不妊の女が七人の子を産み、多くの子を持つ女が、しおれてしまいます。
0206 【主】は殺し、また生かし、よみに下し、また上げる。
0207 【主】は、貧しくし、また富ませ、低くし、また高くするのです。
0208 主は、弱い者をちりから起こし、貧しい人を、あくたから引き上げ、高貴な者とともに、すわらせ、彼らに栄光の位を継がせます。まことに、地の柱は【主】のもの、その上に主は世界を据えられました。
0209 主は聖徒たちの足を守られます。悪者どもは、やみの中に滅びうせます。まことに人は、おのれの力によっては勝てません。
0210 【主】は、はむかう者を打ち砕き、その者に、天から雷鳴を響かせられます。【主】は地の果て果てまでさばき、ご自分の王に力を授け、主に油そそがれた者の角を高く上げられます。」
0211 その後、エルカナはラマの自分の家に帰った。幼子は、祭司エリのもとで【主】に仕えていた。
0212 さて、エリの息子たちは、よこしまな者で、【主】を知らず、
0213 民にかかわる祭司の定めについてもそうであった。だれかが、いけにえをささげていると、まだ肉を煮ている間に、祭司の子が三又の肉刺しを手にしてやって来て、
0214 これを、大なべや、かまや、大がまや、なべに突き入れ、肉刺しで取り上げたものをみな、祭司が自分のものとして取っていた。彼らはシロで、そこに来るすべてのイスラエルに、このようにしていた。
0215 それどころか、人々が脂肪を焼いて煙にしないうちに祭司の子はやって来て、いけにえをささげる人に、「祭司に、その焼く肉を渡しなさい。祭司は煮た肉は受け取りません。生の肉だけです」と言うので、
0216 人が、「まず、脂肪をすっかり焼いて煙にし、好きなだけお取りなさい」と言うと、祭司の子は、「いや、いま渡さなければならない。でなければ、私は力ずくで取る」と言った。
0217 このように、子たちの罪は、【主】の前で非常に大きかった。【主】へのささげ物を、この人たちが侮ったからである。
0218 サムエルはまだ幼く、亜麻布のエポデを身にまとい、【主】の前に仕えていた。
0219 サムエルの母は、彼のために小さな上着を作り、毎年、夫とともに、その年のいけにえをささげに上って行くとき、その上着を持って行くのだった。
0220 エリは、エルカナとその妻を祝福して、「【主】がお求めになった者の代わりに、【主】がこの女により、あなたに子どもを賜りますように」と言い、彼らは、自分の家に帰るのであった。
0221 事実、【主】はハンナを顧み、彼女はみごもって、三人の息子と、ふたりの娘を産んだ。少年サムエルは、主のみもとで成長した。
0222 エリは非常に年をとっていた。彼は自分の息子たちがイスラエル全体に行っていることの一部始終、それに彼らが会見の天幕の入口で仕えている女たちと寝ているということを聞いた。
0223 それでエリは息子たちに言った。「なぜ、おまえたちはこんなことをするのだ。私はこの民全部から、おまえたちのした悪いことについて聞いている。
0224 子たちよ。そういうことをしてはいけない。私が【主】の民の言いふらしているのを聞くそのうわさは良いものではない。
0225 人がもし、ほかの人に対して罪を犯すと、神がその仲裁をしてくださる。だが、人が【主】に対して罪を犯したら、だれが、その者のために仲裁に立とうか。」しかし、彼らは父の言うことを聞こうとしなかった。彼らを殺すことが【主】のみこころであったからである。
0226 一方、少年サムエルはますます成長し、【主】にも、人にも愛された。
0227 そのころ、神の人がエリのところに来て、彼に言った。「【主】はこう仰せられる。あなたの父の家がエジプトでパロの家に属していたとき、わたしは、この身を明らかに彼らに示したではないか。
0228 また、イスラエルの全部族から、その家を選び、わたしの祭司とし、わたしの祭壇に上り、香をたき、わたしの前でエポデを着るようにした。こうして、イスラエル人のすべての火によるささげ物を、あなたの父の家に与えた。
0229 なぜ、あなたがたは、わたしが命じたわたしへのいけにえ、わたしへのささげ物を、わたしの住む所で軽くあしらい、またあなたは、わたしよりも自分の息子たちを重んじて、わたしの民イスラエルのすべてのささげ物のうち最上の部分で自分たちを肥やそうとするのか。
0230 それゆえ、──イスラエルの神、【主】の御告げだ──あなたの家と、あなたの父の家とは、永遠にわたしの前を歩む、と確かに言ったが、今や、──【主】の御告げだ──絶対にそんなことはない。わたしは、わたしを尊ぶ者を尊ぶ。わたしをさげすむ者は軽んじられる。
0231 見よ。わたしがあなたの腕と、あなたの父の家の腕とを切り落とし、あなたの家には年寄りがいなくなる日が近づいている。
0232 イスラエルはしあわせにされるのに、あなたはわたしの住む所で敵を見るようになろう。あなたの家には、いつまでも、年寄りがいなくなる。
0233 わたしは、ひとりの人をあなたのために、わたしの祭壇から断ち切らない。その人はあなたの目を衰えさせ、あなたの心をやつれさせよう。あなたの家の多くの者はみな、壮年のうちに死ななければならない。
0234 あなたのふたりの息子、ホフニとピネハスの身にふりかかることが、あなたへのしるしである。ふたりとも一日のうちに死ぬ。
0235 わたしは、わたしの心と思いの中で事を行う忠実な祭司を、わたしのために起こそう。わたしは彼のために長く続く家を建てよう。彼は、いつまでもわたしに油そそがれた者の前を歩むであろう。
0236 あなたの家の生き残った者はみな、賃金とパン一個を求めて彼のところに来ておじぎをし、『どうか、祭司の務めの一つでも私にあてがって、一切れのパンを食べさせてください』と言おう。」
0301 少年サムエルはエリの前で【主】に仕えていた。そのころ、【主】のことばはまれにしかなく、幻も示されなかった。
0302 その日、エリは自分の所で寝ていた。──彼の目はかすんできて、見えなくなっていた──
0303 神のともしびは、まだ消えていず、サムエルは、神の箱の安置されている【主】の宮で寝ていた。
0304 そのとき、【主】はサムエルを呼ばれた。彼は、「はい。ここにおります」と言って、
0305 エリのところに走って行き、「はい。ここにおります。私をお呼びになったので」と言った。エリは、「私は呼ばない。帰って、おやすみ」と言った。それでサムエルは戻って、寝た。
0306 【主】はもう一度、サムエルを呼ばれた。サムエルは起きて、エリのところに行き、「はい。ここにおります。私をお呼びになったので」と言った。エリは、「私は呼ばない。わが子よ。帰って、おやすみ」と言った。
0307 サムエルはまだ、【主】を知らず、【主】のことばもまだ、彼に示されていなかった。
0308 【主】が三度目にサムエルを呼ばれたとき、サムエルは起きて、エリのところに行き、「はい。ここにおります。私をお呼びになったので」と言った。そこでエリは、【主】がこの少年を呼んでおられるということを悟った。
0309 それで、エリはサムエルに言った。「行って、おやすみ。今度呼ばれたら、『【主】よ。お話しください。しもべは聞いております』と申し上げなさい。」サムエルは行って、自分の所で寝た。
0310 そのうちに【主】が来られ、そばに立って、これまでと同じように、「サムエル。サムエル」と呼ばれた。サムエルは、「お話しください。しもべは聞いております」と申し上げた。
0311 【主】はサムエルに仰せられた。「見よ。わたしは、イスラエルに一つの事をしようとしている。それを聞く者はみな、二つの耳が鳴るであろう。
0312 その日には、エリの家についてわたしが語ったことをすべて、初めから終わりまでエリに果たそう。
0313 わたしは彼の家を永遠にさばくと彼に告げた。それは自分の息子たちが、みずからのろいを招くようなことをしているのを知りながら、彼らを戒めなかった罪のためだ。
0314 だから、わたしはエリの家について誓った。エリの家の咎は、いけにえによっても、穀物のささげ物によっても、永遠に償うことはできない。」
0315 サムエルは朝まで眠り、それから【主】の宮のとびらをあけた。サムエルは、この黙示についてエリに語るのを恐れた。
0316 ところが、エリはサムエルを呼んで言った。「わが子サムエルよ。」サムエルは、「はい。ここにおります」と答えた。
0317 エリは言った。「おまえにお告げになったことは、どんなことだったのか。私に隠さないでくれ。もし、おまえにお告げになったことばの一つでも私に隠すなら、神がおまえを幾重にも罰せられるように。」
0318 それでサムエルは、すべてのことを話して、何も隠さなかった。エリは言った。「その方は【主】だ。主がみこころにかなうことをなさいますように。」
0319 サムエルは成長した。【主】は彼とともにおられ、彼のことばを一つも地に落とされなかった。
0320 こうして全イスラエルは、ダンからベエル・シェバまで、サムエルが【主】の預言者に任じられたことを知った。
0321 【主】は再びシロで現れた。【主】のことばによって、【主】がご自身をシロでサムエルに現されたからである。