サムエル記 第T

0401 サムエルのことばが全イスラエルに行き渡ったころ、イスラエルはペリシテ人を迎え撃つために戦いに出て、エベン・エゼルのあたりに陣を敷いた。ペリシテ人はアフェクに陣を敷いた。
0402 ペリシテ人はイスラエルを迎え撃つ陣ぞなえをした。戦いが始まると、イスラエルはペリシテ人に打ち負かされ、約四千人が野の陣地で打たれた。
0403 民が陣営に戻って来たとき、イスラエルの長老たちは言った。「なぜ【主】は、きょう、ペリシテ人の前でわれわれを打ったのだろう。シロから【主】の契約の箱をわれわれのところに持って来よう。そうすれば、それがわれわれの真ん中に来て、われわれを敵の手から救おう。」
0404 そこで民はシロに人を送った。彼らはそこから、ケルビムに座しておられる万軍の【主】の契約の箱をかついで来た。エリのふたりの息子、ホフニとピネハスも、神の契約の箱といっしょにそこに来た。
0405 【主】の契約の箱が陣営に着いたとき、全イスラエルは大歓声をあげた。それで地はどよめいた。
0406 ペリシテ人は、その歓声を聞いて、「ヘブル人の陣営の、あの大歓声は何だろう」と言った。そして、【主】の箱が陣営に着いたと知ったとき、
0407 ペリシテ人は、「神が陣営に来た」と言って、恐れた。そして言った。「ああ、困ったことだ。今まで、こんなことはなかった。
0408 ああ、困ったことだ。だれがこの力ある神々の手から、われわれを救い出してくれよう。これらの神々は、荒野で、ありとあらゆる災害をもってエジプトを打った神々だ。
0409 さあ、ペリシテ人よ。奮い立て。男らしくふるまえ。さもないと、ヘブル人がおまえたちに仕えたように、おまえたちがヘブル人に仕えるようになる。男らしくふるまって戦え。」
0410 こうしてペリシテ人は戦ったので、イスラエルは打ち負かされ、おのおの自分たちの天幕に逃げた。そのとき、非常に激しい疫病が起こり、イスラエルの歩兵三万人が倒れた。
0411 神の箱は奪われ、エリのふたりの息子、ホフニとピネハスは死んだ。
0412 その日、ひとりのベニヤミン人が、戦場から走って来て、シロに着いた。その着物は裂け、頭には土をかぶっていた。
0413 彼が着いたとき、エリは道のそばに設けた席にすわって、見張っていた。神の箱のことを気づかっていたからである。この男が町に入って敗戦を知らせたので、町中こぞって泣き叫んだ。
0414 エリが、この泣き叫ぶ声を聞いて、「この騒々しい声は何だ」と尋ねると、この者は大急ぎでやって来て、エリに知らせた。
0415 エリは九十八歳で、その目はこわばり、何も見えなくなっていた。
0416 その男はエリに言った。「私は戦場から来た者です。私は、きょう、戦場から逃げて来ました。」するとエリは、「状況はどうか。わが子よ」と聞いた。
0417 この知らせを持って来た者は答えて言った。「イスラエルはペリシテ人の前から逃げ、民のうちに打たれた者が多く出ました。それにあなたのふたりの子息、ホフニとピネハスも死に、神の箱は奪われました。」
0418 彼が神の箱のことを告げたとき、エリはその席から門のそばにあおむけに落ち、首を折って死んだ。年寄りで、からだが重かったからである。彼は四十年間、イスラエルをさばいた。
0419 彼の嫁、ピネハスの妻は身ごもっていて、出産間近であったが、神の箱が奪われ、しゅうとと、夫が死んだという知らせを聞いたとき、陣痛が起こり、身をかがめて子を産んだ。
0420 彼女が死にかけているので、彼女の世話をしていた女たちが、「しっかりしなさい。男の子が生まれましたよ」と言ったが、彼女は答えもせず、気にも留めなかった。
0421 彼女は、「栄光がイスラエルから去った」と言って、その子をイ・カボデと名づけた。これは神の箱が奪われたこと、それに、しゅうとと、夫のことをさしたのである。
0422 彼女は、「栄光はイスラエルを去りました。神の箱が奪われたから」と言った。
0501 ペリシテ人は神の箱を奪って、それをエベン・エゼルからアシュドデに運んだ。
0502 それからペリシテ人は神の箱を取って、それをダゴンの宮に運び、ダゴンのかたわらに安置した。
0503 アシュドデの人たちが、翌日、朝早く起きて見ると、ダゴンは【主】の箱の前に、地にうつぶせになって倒れていた。そこで彼らはダゴンを取り、それをもとの所に戻した。
0504 次の日、朝早く彼らが起きて見ると、やはり、ダゴンは【主】の箱の前に、地にうつぶせになって倒れていた。ダゴンの頭と両腕は切り離されて敷居のところにあり、ダゴンの胴体だけが、そこに残っていた。
0505 それで、ダゴンの祭司たちや、ダゴンの宮に行く者はだれでも、今日に至るまで、アシュドデにあるダゴンの敷居を踏まない。
0506 さらに【主】の手はアシュドデの人たちの上に重くのしかかり、アシュドデとその地域の人々とを腫物で打って脅かした。
0507 アシュドデの人々は、この有様を見て言った。「イスラエルの神の箱を、私たちのもとにとどめておいてはならない。その神の手が私たちと、私たちの神ダゴンを、ひどいめに会わせるから。」
0508 それで彼らは人をやり、ペリシテ人の領主を全部そこに集め、「イスラエルの神の箱をどうしたらよいでしょうか」と尋ねた。彼らは、「イスラエルの神の箱をガテに移したらよかろう」と答えた。そこで彼らはイスラエルの神の箱を移した。
0509 それがガテに移されて後、【主】の手はこの町に下り、非常な大恐慌を引き起こし、この町の人々を、上の者も下の者もみな打ったので、彼らに腫物ができた。
0510 そこで、彼らは神の箱をエクロンに送った。神の箱がエクロンに着いたとき、エクロンの人たちは大声で叫んで言った。「私たちのところにイスラエルの神の箱を回して、私たちと、この民を殺すのか。」
0511 そこで彼らは人をやり、ペリシテ人の領主を全部集めて、「イスラエルの神の箱を送って、もとの所に戻っていただきましょう。私たちと、この民とを殺すことがないように」と言った。町中に死の恐慌があったからである。神の手は、そこに非常に重くのしかかっていた。
0512 死ななかった者も腫物で打たれ、町の叫び声は天にまで上った。
0601 【主】の箱は七か月もペリシテ人の野にあった。
0602 ペリシテ人は祭司たちと占い師たちを呼び寄せて言った。「【主】の箱を、どうしたらよいだろう。どのようにして、それをもとの所に送り返せるか、教えてもらいたい。」
0603 すると彼らは答えた。「イスラエルの神の箱を送り返すのなら、何もつけないで送り返してはなりません。彼に対して償いをしなければなりません。そうすれば、あなたがたはいやされましょう。なぜ、神の手があなたがたから去らないかがわかるでしょう。」
0604 人々は言った。「私たちのする償いとは何ですか。」彼らは言った。「ペリシテ人の領主の数によって、五つの金の腫物、すなわち五つの金のねずみです。あなたがたみなと、あなたがたの領主へのわざわいは同じであったからです。
0605 あなたがたの腫物の像、すなわちこの地を荒らしたねずみの像を作り、イスラエルの神に栄光を帰するなら、たぶん、あなたがたと、あなたがたの神々と、この国とに下される神の手は、軽くなるでしょう。
0606 なぜ、あなたがたは、エジプト人とパロが心をかたくなにしたように、心をかたくなにするのですか。神が彼らをひどいめに会わせたときに、彼らは、イスラエルを自由にして、彼らを去らせたではありませんか。
0607 それで今、一台の新しい車を仕立て、くびきをつけたことのない、乳を飲ませている二頭の雌牛を取り、その雌牛を車につなぎ、子牛は引き離して牛小屋に戻しなさい。
0608 また【主】の箱を取ってその車に載せなさい。償いとして返す金の品物を鞍袋に入れ、そのかたわらに置き、それを行くがままにさせなければならない。
0609 あなたがたは、箱がその国への道をベテ・シェメシュに上って行けば、私たちにこの大きなわざわいを起こしたのは、あの箱だと思わなければならない。もし、行かなければ、その手は私たちを打たず、それは私たちに偶然起こったことだと知ろう。」
0610 人々はそのようにした。彼らは乳を飲ませている二頭の雌牛を取り、それを車につないだ。子牛は牛小屋に閉じ込めた。
0611 そして【主】の箱を車に載せ、また金のねずみ、すなわち腫物の像を入れた鞍袋を載せた。
0612 すると雌牛は、ベテ・シェメシュへの道、一筋の大路をまっすぐに進み、鳴きながら進み続け、右にも左にもそれなかった。ペリシテ人の領主たちは、ベテ・シェメシュの国境まで、そのあとについて行った。
0613 ベテ・シェメシュの人々は、谷間で小麦の刈り入れをしていたが、目を上げたとき、神の箱が見えた。彼らはそれを見て喜んだ。
0614 車はベテ・シェメシュ人ヨシュアの畑に入り、そこにとどまった。そこには大きな石があった。その人たちは、その車の木を割り、その雌牛を全焼のいけにえとして【主】にささげた。
0615 レビ人たちは、【主】の箱と、そばにあった金の品物の入っている鞍袋とを降ろし、その大きな石の上に置いた。ベテ・シェメシュの人たちは全焼のいけにえをささげ、その日、ほかのいけにえも【主】にささげた。
0616 五人のペリシテ人の領主たちは、これを見て、その日のうちにエクロンへ帰った。
0617 ペリシテ人が、償いとして【主】に返した金の腫物は、アシュドデのために一つ、ガザのために一つ、アシュケロンのために一つ、ガテのために一つ、エクロンのために一つであった。
0618 すなわち金のねずみは、五人の領主のものであるペリシテ人のすべての町──城壁のある町から城壁のない村まで──の数によっていた。終わりに【主】の箱が安置されたアベルの大きな台は、今日までベテ・シェメシュ人ヨシュアの畑にある。
0619 主はベテ・シェメシュの人たちを打たれた。【主】の箱の中を見たからである。そのとき主は、その民五万七十人を打たれた。【主】が民を激しく打たれたので、民は喪に服した。
0620 ベテ・シェメシュの人々は言った。「だれが、この聖なる神、【主】の前に立ちえよう。私たちのところから、だれのところへ上って行かれるのか。」
0621 そこで、彼らはキルヤテ・エアリムの住民に使者を送って言った。「ペリシテ人が【主】の箱を返してよこしました。下って来て、それをあなたがたのところに運び上げてください。」

次へ
戻る
INDEX