伝道者の書

0701 良い名声は良い香油にまさり、死の日は生まれる日にまさる。
0702 祝宴の家に行くよりは、喪中の家に行くほうがよい。そこには、すべての人の終わりがあり、生きている者がそれを心に留めるようになるからだ。
0703 悲しみは笑いにまさる。顔の曇りによって心は良くなる。
0704 知恵ある者の心は喪中の家に向き、愚かな者の心は楽しみの家に向く。
0705 知恵ある者の叱責を聞くのは、愚かな者の歌を聞くのにまさる。
0706 愚かな者の笑いは、なべの下のいばらがはじける音に似ている。これもまた、むなしい。
0707 しいたげは知恵ある者を愚かにし、まいないは心を滅ぼす。
0708 事の終わりは、その初めにまさり、忍耐は、うぬぼれにまさる。
0709 軽々しく心をいらだててはならない。いらだちは愚かな者の胸にとどまるから。
0710 「どうして、昔のほうが今より良かったのか」と言ってはならない。このような問いは、知恵によるのではない。
0711 資産を伴う知恵は良い。日を見る人に益となる。
0712 知恵の陰にいるのは、金銭の陰にいるようだ。知識の益は、知恵がその持ち主を生かすことにある。
0713 神のみわざに目を留めよ。神が曲げたものをだれがまっすぐにできようか。
0714 順境の日には喜び、逆境の日には反省せよ。これもあれも神のなさること。それは後の事を人にわからせないためである。
0715 私はこのむなしい人生において、すべての事を見てきた。正しい人が正しいのに滅び、悪者が悪いのに長生きすることがある。
0716 あなたは正しすぎてはならない。知恵がありすぎてはならない。なぜあなたは自分を滅ぼそうとするのか。
0717 悪すぎてもいけない。愚かすぎてもいけない。自分の時が来ないのに、なぜ死のうとするのか。
0718 一つをつかみ、もう一つを手放さないがよい。神を恐れる者は、この両方を会得している。
0719 知恵は町の十人の権力者よりも知恵者を力づける。
0720 この地上には、善を行い、罪を犯さない正しい人はひとりもいないから。
0721 人の語ることばにいちいち心を留めてはならない。あなたのしもべがあなたをのろうのを聞かないためだ。
0722 あなた自身も他人を何度ものろったことを知っているからだ。
0723 私は、これらのいっさいを知恵によって試み、そして言った。「私は知恵ある者になりたい」と。しかし、それは私の遠く及ばないことだった。
0724 今あることは、遠くて非常に深い。だれがそれを見きわめることができよう。
0725 私は心を転じて、知恵と道理を学び、探り出し、捜し求めた。愚かな者の悪行と狂った者の愚かさを学びとろうとした。
0726 私は女が死よりも苦々しいことに気がついた。女はわなであり、その心は網、その手はかせである。神に喜ばれる者は女からのがれるが、罪を犯す者は女に捕らえられる。
0727 見よ。「私は道理を見いだそうとして、一つ一つに当たり、見いだしたことは次のとおりである」と伝道者は言う。
0728 私はなおも捜し求めているが、見いださない。私は千人のうちに、ひとりの男を見いだしたが、そのすべてのうちに、ひとりの女も見いださなかった。
0729 私が見いだした次の事だけに目を留めよ。神は人を正しい者に造られたが、人は多くの理屈を捜し求めたのだ。
0801 だれが知恵ある者にふさわしいだろう。だれが事物の意義を知りえよう。人の知恵は、その人の顔を輝かし、その顔の固さを和らげる。
0802 私は言う。王の命令を守れ。神の誓約があるから。
0803 王の前からあわてて退出するな。悪事に荷担するな。王は自分の望むままを何でもするから。
0804 王のことばには権威がある。だれが彼に、「あなたは何をするのですか」と言えようか。
0805 命令を守る者はわざわいを知らない。知恵ある者の心は時とさばきを知っている。
0806 すべての営みには時とさばきがある。人に降りかかるわざわいが多いからだ。
0807 何が起こるかを知っている者はいない。いつ起こるかをだれも告げることはできない。
0808 風を支配し、風を止めることのできる人はいない。死の日も支配することはできない。この戦いから放免される者はいない。悪は悪の所有者を救いえない。
0809 私はこのすべてを見て、日の下で行われるいっさいのわざ、人が人を支配して、わざわいを与える時について、私の心を用いた。
0810 そこで、私は見た。悪者どもが葬られて、行くのを。しかし、正しい行いの者が、聖なる方の所を去り、そうして、町で忘れられるのを。これもまた、むなしい。
0811 悪い行いに対する宣告がすぐ下されないので、人の子らの心は悪を行う思いで満ちている。
0812 罪人が、百度悪事を犯しても、長生きしている。しかし私は、神を恐れる者も、神を敬って、しあわせであることを知っている。
0813 悪者にはしあわせがない。その生涯を影のように長くすることはできない。彼らは神を敬わないからだ。
0814 しかし、むなしいことが地上で行われている。悪者の行いに対する報いを正しい人がその身に受け、正しい人の行いに対する報いを悪者がその身に受けることがある。これもまた、むなしい、と私は言いたい。
0815 私は快楽を賛美する。日の下では、食べて、飲んで、楽しむよりほかに、人にとって良いことはない。これは、日の下で、神が人に与える一生の間に、その労苦に添えてくださるものだ。
0816 私は一心に知恵を知り、昼も夜も眠らずに、地上で行われる人の仕事を見ようとしたとき、
0817 すべては神のみわざであることがわかった。人は日の下で行われるみわざを見きわめることはできない。人は労苦して捜し求めても、見いだすことはない。知恵ある者が知っていると思っても、見きわめることはできない。
0901 というのは、私はこのいっさいを心に留め、正しい人も、知恵のある者も、彼らの働きも、神の御手の中にあることを確かめたからである。彼らの前にあるすべてのものが愛であるか、憎しみであるか、人にはわからない。
0902 すべての事はすべての人に同じように起こる。同じ結末が、正しい人にも、悪者にも、善人にも、きよい人にも、汚れた人にも、いけにえをささげる人にも、いけにえをささげない人にも来る。善人にも、罪人にも同様である。誓う者にも、誓うのを恐れる者にも同様である。
0903 同じ結末がすべての人に来るということ、これは日の下で行われるすべての事のうちで最も悪い。だから、人の子らの心は悪に満ち、生きている間、その心には狂気が満ち、それから後、死人のところに行く。
0904 すべて生きている者に連なっている者には希望がある。生きている犬は死んだ獅子にまさるからである。
0905 生きている者は自分が死ぬことを知っているが、死んだ者は何も知らない。彼らにはもはや何の報いもなく、彼らの呼び名も忘れられる。
0906 彼らの愛も憎しみも、ねたみもすでに消えうせ、日の下で行われるすべての事において、彼らには、もはや永遠に受ける分はない。
0907 さあ、喜んであなたのパンを食べ、愉快にあなたのぶどう酒を飲め。神はすでにあなたの行いを喜んでおられる。
0908 いつもあなたは白い着物を着、頭には油を絶やしてはならない。
0909 日の下であなたに与えられたむなしい一生の間に、あなたの愛する妻と生活を楽しむがよい。それが、生きている間に、日の下であなたがする労苦によるあなたの受ける分である。
0910 あなたの手もとにあるなすべきことはみな、自分の力でしなさい。あなたが行こうとしているよみには、働きも企ても知識も知恵もないからだ。
0911 私は再び、日の下を見たが、競走は足の早い人のものではなく、戦いは勇士のものではなく、またパンは知恵ある人のものではなく、また富は悟りのある人のものではなく、愛顧は知識のある人のものではないことがわかった。すべての人が時と機会に出会うからだ。
0912 しかも、人は自分の時を知らない。悪い網にかかった魚のように、わなにかかった鳥のように、人の子らもまた、わざわいの時が突然彼らを襲うと、それにかかってしまう。
0913 私はまた、日の下で知恵についてこのようなことを見た。それは私にとって大きなことであった。
0914 わずかな人々が住む小さな町があった。そこに大王が攻めて来て、これを包囲し、これに対して大きなとりでを築いた。
0915 ところが、その町に、貧しいひとりの知恵ある者がいて、自分の知恵を用いてその町を解放した。しかし、だれもこの貧しい人を記憶しなかった。
0916 私は言う。「知恵は力にまさる。しかし貧しい者の知恵はさげすまれ、彼の言うことも聞かれない。」
0917 知恵ある者の静かなことばは、愚かな者の間の支配者の叫びよりは、よく聞かれる。
0918 知恵は武器にまさり、ひとりの罪人は多くの良いことを打ちこわす。

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