伝道者の書

1001 死んだはえは、調合した香油を臭くし、発酵させる。少しの愚かさは、知恵や栄誉よりも重い。
1002 知恵ある者の心は右に向き、愚かな者の心は左に向く。
1003 愚か者が道を行くとき、思慮に欠けている。自分が愚かであることを、みなに知らせる。
1004 支配者があなたに向かって立腹しても、あなたはその場を離れてはならない。冷静は大きな罪を犯さないようにするから。
1005 私は、日の下に一つの悪があるのを見た。それは権力者の犯す過失のようなものである。
1006 愚か者が非常に高い位につけられ、富む者が低い席に着けられている。
1007 私は奴隷たちが馬に乗り、君主たちが奴隷のように地を歩くのを見た。
1008 穴を掘る者はそれに落ち込み、石垣をくずす者は蛇にかまれる。
1009 石を切り出す者は石で傷つき、木を割る者は木で危険にさらされる。
1010 もし斧が鈍くなったとき、その刃をとがないと、もっと力がいる。しかし知恵は人を成功させるのに益になる。
1011 もし蛇がまじないにかからずにかみつくなら、それは蛇使いに何の益にもならない。
1012 知恵ある者が口にすることばは優しく、愚かな者のくちびるはその身を滅ぼす。
1013 彼が口にすることばの始まりは、愚かなこと、彼の口の終わりは、みじめな狂気。
1014 愚か者はよくしゃべる。人はこれから起こることを知らない。これから後に起こることをだれが告げることができよう。
1015 愚かな者の労苦は、おのれを疲れさせる。彼は町に行く道さえ知らない。
1016 わざわいなことよ。あなたの王が子どもであって、あなたの首長たちが朝から食事をする国は。
1017 幸いなことよ。あなたの王が貴族の出であって、あなたの首長たちが、酔うためではなく、力をつけるために、定まった時に、食事をする国は。
1018 なまけていると天井が落ち、手をこまねいていると雨漏りがする。
1019 食事をするのは笑うため。ぶどう酒は人生を楽しませる。金銭はすべての必要に応じる。
1020 王をのろおうと、ひそかに思ってはならない。寝室でも富む者をのろってはならない。なぜなら、空の鳥がその声を持ち運び、翼のあるものがそのことを告げるからだ。
1101 あなたのパンを水の上に投げよ。ずっと後の日になって、あなたはそれを見いだそう。
1102 あなたの受ける分を七人か八人に分けておけ。地上でどんなわざわいが起こるかあなたは知らないのだから。
1103 雲が雨で満ちると、それは地上に降り注ぐ。木が南風や北風で倒されると、その木は倒れた場所にそのままにある。
1104 風を警戒している人は種を蒔かない。雲を見ている者は刈り入れをしない。
1105 あなたは妊婦の胎内の骨々のことと同様、風の道がどのようなものかを知らない。そのように、あなたはいっさいを行われる神のみわざを知らない。
1106 朝のうちにあなたの種を蒔け。夕方も手を放してはいけない。あなたは、あれか、これか、どこで成功するのか、知らないからだ。二つとも同じようにうまくいくかもわからない。
1107 光は快い。太陽を見ることは目のために良い。
1108 人は長年生きて、ずっと楽しむがよい。だが、やみの日も数多くあることを忘れてはならない。すべて起こることはみな、むなしい。
1109 若い男よ。若いうちに楽しめ。若い日にあなたの心を喜ばせよ。あなたの心のおもむくまま、あなたの目の望むままに歩め。しかし、これらすべての事において、あなたは神のさばきを受けることを知っておけ。
1110 だから、あなたの心から悲しみを除き、あなたの肉体から痛みを取り去れ。若さも、青春も、むなしいからだ。
1201 あなたの若い日に、あなたの創造者を覚えよ。わざわいの日が来ないうちに、また「何の喜びもない」と言う年月が近づく前に。
1202 太陽と光、月と星が暗くなり、雨の後にまた雨雲がおおう前に。
1203 その日には、家を守る者は震え、力のある男たちは身をかがめ、粉ひき女たちは少なくなって仕事をやめ、窓からながめている女の目は暗くなる。
1204 通りのとびらは閉ざされ、臼をひく音も低くなり、人は鳥の声に起き上がり、歌を歌う娘たちはみなうなだれる。
1205 彼らはまた高い所を恐れ、道でおびえる。アーモンドの花は咲き、いなごはのろのろ歩き、ふうちょうぼくは花を開く。だが、人は永遠の家へと歩いて行き、嘆く者たちが通りを歩き回る。
1206 こうしてついに、銀のひもは切れ、金の器は打ち砕かれ、水がめは泉のかたわらで砕かれ、滑車が井戸のそばでこわされる。
1207 ちりはもとあった地に帰り、霊はこれを下さった神に帰る。
1208 空の空。伝道者は言う。すべては空。
1209 伝道者は知恵ある者であったが、そのうえ、知識を民に教えた。彼は思索し、探求し、多くの箴言をまとめた。
1210 伝道者は適切なことばを見いだそうとし、真理のことばを正しく書き残した。
1211 知恵ある者のことばは突き棒のようなもの、編集されたものはよく打ちつけられた釘のようなものである。これらはひとりの羊飼いによって与えられた。
1212 わが子よ。これ以外のことにも注意せよ。多くの本を作ることには、限りがない。多くのものに熱中すると、からだが疲れる。
1213 結局のところ、もうすべてが聞かされていることだ。神を恐れよ。神の命令を守れ。これが人間にとってすべてである。
1214 神は、善であれ悪であれ、すべての隠れたことについて、すべてのわざをさばかれるからだ。

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