伝道者の書

0401 私は再び、日の下で行われるいっさいのしいたげを見た。見よ、しいたげられている者の涙を。彼らには慰める者がいない。しいたげる者が権力をふるう。しかし、彼らには慰める者がいない。
0402 私は、まだいのちがあって生きながらえている人よりは、すでに死んだ死人のほうに祝いを申し述べる。
0403 また、この両者よりもっと良いのは、今までに存在しなかった者、日の下で行われる悪いわざを見なかった者だ。
0404 私はまた、あらゆる労苦とあらゆる仕事の成功を見た。それは人間同士のねたみにすぎない。これもまた、むなしく、風を追うようなものだ。
0405 愚かな者は、手をこまねいて、自分の肉を食べる。
0406 片手に安楽を満たすことは、両手に労苦を満たして風を追うのにまさる。
0407 私は再び、日の下にむなしさのあるのを見た。
0408 ひとりぼっちで、仲間もなく、子も兄弟もない人がいる。それでも彼のいっさいの労苦には終わりがなく、彼の目は富を求めて飽き足りることがない。そして、「私はだれのために労苦し、楽しみもなくて自分を犠牲にしているのか」とも言わない。これもまた、むなしく、つらい仕事だ。
0409 ふたりはひとりよりもまさっている。ふたりが労苦すれば、良い報いがあるからだ。
0410 どちらかが倒れるとき、ひとりがその仲間を起こす。倒れても起こす者のいないひとりぼっちの人はかわいそうだ。
0411 また、ふたりがいっしょに寝ると暖かいが、ひとりでは、どうして暖かくなろう。
0412 もしひとりなら、打ち負かされても、ふたりなら立ち向かえる。三つ撚りの糸は簡単には切れない。
0413 貧しくても知恵のある若者は、もう忠言を受けつけない年とった愚かな王にまさる。
0414 たとい、彼が牢獄から出て来て王になったにしても、たとい、彼が王国で貧しく生まれた者であったにしても。
0415 私は、日の下に生息するすべての生きものが、王に代わって立つ後継の若者の側につくのを見た。
0416 すべての民には果てしがない。彼が今あるすべての民の先頭に立っても、これから後の者たちは、彼を喜ばないであろう。これもまた、むなしく、風を追うようなものだ。
0501 神の宮へ行くときは、自分の足に気をつけよ。近寄って聞くことは、愚かな者がいけにえをささげるのにまさる。彼らは自分たちが悪を行っていることを知らないからだ。
0502 神の前では、軽々しく、心あせってことばを出すな。神は天におられ、あなたは地にいるからだ。だから、ことばを少なくせよ。
0503 仕事が多いと夢を見る。ことばが多いと愚かな者の声となる。
0504 神に誓願を立てるときには、それを果たすのを遅らせてはならない。神は愚かな者を喜ばないからだ。誓ったことは果たせ。
0505 誓って果たさないよりは、誓わないほうがよい。
0506 あなたの口が、あなたに罪を犯させないようにせよ。使者の前で「あれは過失だ」と言ってはならない。神が、あなたの言うことを聞いて怒り、あなたの手のわざを滅ぼしてもよいだろうか。
0507 夢が多くなると、むなしいことばも多くなる。ただ、神を恐れよ。
0508 ある州で、貧しい者がしいたげられ、権利と正義がかすめられるのを見ても、そのことに驚いてはならない。その上役には、それを見張るもうひとりの上役がおり、彼らよりももっと高い者たちもいる。
0509 何にもまして、国の利益は農地を耕させる王である。
0510 金銭を愛する者は金銭に満足しない。富を愛する者は収益に満足しない。これもまた、むなしい。
0511 財産がふえると、寄食者もふえる。持ち主にとって何の益になろう。彼はそれを目で見るだけだ。
0512 働く者は、少し食べても多く食べても、ここちよく眠る。富む者は、満腹しても、安眠をとどめられる。
0513 私は日の下に、痛ましいことがあるのを見た。所有者に守られている富が、その人に害を加えることだ。
0514 その富は不幸な出来事で失われ、子どもが生まれても、自分の手もとには何もない。
0515 母の胎から出て来たときのように、また裸でもとの所に帰る。彼は、自分の労苦によって得たものを、何一つ手に携えて行くことができない。
0516 これも痛ましいことだ。出て来たときと全く同じようにして去って行く。風のために労苦して何の益があるだろう。
0517 しかも、人は一生、やみの中で食事をする。多くの苦痛、病気、そして怒り。
0518 見よ。私がよいと見たこと、好ましいことは、神がその人に許されるいのちの日数の間、日の下で骨折るすべての労苦のうちに、しあわせを見つけて、食べたり飲んだりすることだ。これが人の受ける分なのだ。
0519 実に神はすべての人間に富と財宝を与え、これを楽しむことを許し、自分の受ける分を受け、自分の労苦を喜ぶようにされた。これこそが神の賜物である。
0520 こういう人は、自分の生涯のことをくよくよ思わない。神が彼の心を喜びで満たされるからだ。
0601 私は日の下で、もう一つの悪があるのを見た。それは人の上に重くのしかかっている。
0602 神が富と財宝と誉れとを与え、彼の望むもので何一つ欠けたもののない人がいる。しかし、神は、この人がそれを楽しむことを許さず、外国人がそれを楽しむようにされる。これはむなしいことで、それは悪い病だ。
0603 もし人が百人の子どもを持ち、多くの年月を生き、彼の年が多くなっても、彼が幸いで満たされることなく、墓にも葬られなかったなら、私は言う、死産の子のほうが彼よりはましだと。
0604 その子はむなしく生まれて来て、やみの中に去り、その名はやみの中に消される。
0605 太陽も見ず、何も知らずに。しかし、この子のほうが彼よりは安らかである。
0606 彼が千年の倍も生きても、──しあわせな目に会わなければ──両者とも同じ所に行くのではないか。
0607 人の労苦はみな、自分の口のためである。しかし、その食欲は決して満たされない。
0608 知恵ある者は、愚かな者より何がまさっていよう。人々の前での生き方を知っている貧しい人も、何がまさっていよう。
0609 目が見るところは、心があこがれることにまさる。これもまた、むなしく、風を追うようなものだ。
0610 今あるものは、何であるか、すでにその名がつけられ、また彼がどんな人であるかも知られている。彼は彼よりも力のある者と争うことはできない。
0611 多く語れば、それだけむなしさを増す。それは、人にとって何の益になるだろう。
0612 だれが知ろうか。影のように過ごすむなしいつかのまの人生で、何が人のために善であるかを。だれが人に告げることができようか。彼の後に、日の下で何が起こるかを。

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