0101 エルサレムでの王、ダビデの子、伝道者のことば。
0102 空の空。伝道者は言う。空の空。すべては空。
0103 日の下で、どんなに労苦しても、それが人に何の益になろう。
0104 一つの時代は去り、次の時代が来る。しかし地はいつまでも変わらない。
0105 日は上り、日は沈み、またもとの上る所に帰って行く。
0106 風は南に吹き、巡って北に吹く。巡り巡って風は吹く。しかし、その巡る道に風は帰る。
0107 川はみな海に流れ込むが、海は満ちることがない。川は流れ込む所に、また流れる。
0108 すべての事はものうい。人は語ることさえできない。目は見て飽きることもなく、耳は聞いて満ち足りることもない。
0109 昔あったものは、これからもあり、昔起こったことは、これからも起こる。日の下には新しいものは一つもない。
0110 「これを見よ。これは新しい」と言われるものがあっても、それは、私たちよりはるか先の時代に、すでにあったものだ。
0111 先にあったことは記憶に残っていない。これから後に起こることも、それから後の時代の人々には記憶されないであろう。
0112 伝道者である私は、エルサレムでイスラエルの王であった。
0113 私は、天の下で行われるいっさいの事について、知恵を用いて、一心に尋ね、探り出そうとした。これは、人の子らが労苦するようにと神が与えたつらい仕事だ。
0114 私は、日の下で行われたすべてのわざを見たが、なんと、すべてがむなしいことよ。風を追うようなものだ。
0115 曲がっているものを、まっすぐにはできない。なくなっているものを、数えることはできない。
0116 私は自分の心にこう語って言った。「今や、私は、私より先にエルサレムにいただれよりも知恵を増し加えた。私の心は多くの知恵と知識を得た。」
0117 私は、一心に知恵と知識を、狂気と愚かさを知ろうとした。それもまた風を追うようなものであることを知った。
0118 実に、知恵が多くなれば悩みも多くなり、知識を増す者は悲しみを増す。
0201 私は心の中で言った。「さあ、快楽を味わってみるがよい。楽しんでみるがよい。」しかし、これもまた、なんとむなしいことか。
0202 笑いか。ばからしいことだ。快楽か。それがいったい何になろう。
0203 私は心の中で、私の心は知恵によって導かれているが、からだはぶどう酒で元気づけようと考えた。人の子が短い一生の間、天の下でする事について、何が良いかを見るまでは、愚かさを身につけていようと考えた。
0204 私は事業を拡張し、邸宅を建て、ぶどう畑を設け、
0205 庭と園を造り、そこにあらゆる種類の果樹を植えた。
0206 木の茂った森を潤すために池も造った。
0207 私は男女の奴隷を得た。私には家で生まれた奴隷があった。私には、私より先にエルサレムにいただれよりも多くの牛や羊もあった。
0208 私はまた、銀や金、それに王たちや諸州の宝も集めた。私は男女の歌うたいをつくり、人の子らの快楽である多くのそばめを手に入れた。
0209 私は、私より先にエルサレムにいただれよりも偉大な者となった。しかも、私の知恵は私から離れなかった。
0210 私は、私の目の欲するものは何でも拒まず、心のおもむくままに、あらゆる楽しみをした。実に私の心はどんな労苦をも喜んだ。これが、私のすべての労苦による私の受ける分であった。
0211 しかし、私が手がけたあらゆる事業と、そのために私が骨折った労苦とを振り返ってみると、なんと、すべてがむなしいことよ。風を追うようなものだ。日の下には何一つ益になるものはない。
0212 私は振り返って、知恵と、狂気と、愚かさとを見た。いったい、王の跡を継ぐ者も、すでになされた事をするのにすぎないではないか。
0213 私は見た。光がやみにまさっているように、知恵は愚かさにまさっていることを。
0214 知恵ある者は、その頭に目があるが、愚かな者はやみの中を歩く。しかし、みな、同じ結末に行き着くことを私は知った。
0215 私は心の中で言った。「私も愚かな者と同じ結末に行き着くのなら、それでは私の知恵は私に何の益になろうか。」私は心の中で語った。「これもまたむなしい」と。
0216 事実、知恵ある者も愚かな者も、いつまでも記憶されることはない。日がたつと、いっさいは忘れられてしまう。知恵ある者も愚かな者とともに死んでいなくなる。
0217 私は生きていることを憎んだ。日の下で行われるわざは、私にとってはわざわいだ。すべてはむなしく、風を追うようなものだから。
0218 私は、日の下で骨折ったいっさいの労苦を憎んだ。後継者のために残さなければならないからである。
0219 後継者が知恵ある者か愚か者か、だれにわかろう。しかも、私が日の下で骨折り、知恵を使ってしたすべての労苦を、その者が支配するようになるのだ。これもまた、むなしい。
0220 私は日の下で骨折ったいっさいの労苦を思い返して絶望した。
0221 どんなに人が知恵と知識と才能をもって労苦しても、何の労苦もしなかった者に、自分の分け前を譲らなければならない。これもまた、むなしく、非常に悪いことだ。
0222 実に、日の下で骨折ったいっさいの労苦と思い煩いは、人に何になろう。
0223 その一生は悲しみであり、その仕事には悩みがあり、その心は夜も休まらない。これもまた、むなしい。
0224 人には、食べたり飲んだりし、自分の労苦に満足を見いだすよりほかに、何も良いことがない。これもまた、神の御手によることがわかった。
0225 実に、神から離れて、だれが食べ、だれが楽しむことができようか。
0226 なぜなら、神は、みこころにかなう人には、知恵と知識と喜びを与え、罪人には、神のみこころにかなう者に渡すために、集め、たくわえる仕事を与えられる。これもまた、むなしく、風を追うようなものだ。
0301 天の下では、何事にも定まった時期があり、すべての営みには時がある。
0302 生まれるのに時があり、死ぬのに時がある。植えるのに時があり、植えた物を引き抜くのに時がある。
0303 殺すのに時があり、いやすのに時がある。くずすのに時があり、建てるのに時がある。
0304 泣くのに時があり、ほほえむのに時がある。嘆くのに時があり、踊るのに時がある。
0305 石を投げ捨てるのに時があり、石を集めるのに時がある。抱擁するのに時があり、抱擁をやめるのに時がある。
0306 捜すのに時があり、失うのに時がある。保つのに時があり、投げ捨てるのに時がある。
0307 引き裂くのに時があり、縫い合わせるのに時がある。黙っているのに時があり、話をするのに時がある。
0308 愛するのに時があり、憎むのに時がある。戦うのに時があり、和睦するのに時がある。
0309 働く者は労苦して何の益を得よう。
0310 私は神が人の子らに与えて労苦させる仕事を見た。
0311 神のなさることは、すべて時にかなって美しい。神はまた、人の心に永遠を与えられた。しかし人は、神が行われるみわざを、初めから終わりまで見きわめることができない。
0312 私は知った。人は生きている間に喜び楽しむほか何も良いことがないのを。
0313 また、人がみな、食べたり飲んだりし、すべての労苦の中にしあわせを見いだすこともまた神の賜物であることを。
0314 私は知った。神のなさることはみな永遠に変わらないことを。それに何かをつけ加えることも、それから何かを取り去ることもできない。神がこのことをされたのだ。人は神を恐れなければならない。
0315 今あることは、すでにあったこと。これからあることも、すでにあったこと。神は、すでに追い求められたことをこれからも捜し求められる。
0316 さらに私は日の下で、さばきの場に不正があり、正義の場に不正があるのを見た。
0317 私は心の中で言った。「神は正しい人も悪者もさばく。そこでは、すべての営みと、すべてのわざには、時があるからだ。」
0318 私は心の中で人の子らについて言った。「神は彼らを試み、彼らが獣にすぎないことを、彼らが気づくようにされたのだ。」
0319 人の子の結末と獣の結末とは同じ結末だ。これも死ねば、あれも死ぬ。両方とも同じ息を持っている。人は何も獣にまさっていない。すべてはむなしいからだ。
0320 みな同じ所に行く。すべてのものはちりから出て、すべてのものはちりに帰る。
0321 だれが知っているだろうか。人の子らの霊は上に上り、獣の霊は地の下に降りて行くのを。
0322 私は見た。人は、自分の仕事を楽しむよりほかに、何も良いことがないことを。それが人の受ける分であるからだ。だれが、これから後に起こることを人に見せてくれるだろう。