ヨブ記

2801 まことに、銀には鉱山があり、金には精錬する所がある。
2802 鉄は土から取られ、銅は石を溶かして取る。
2803 人はやみを目当てとし、その隅々にまで行って、暗やみと暗黒の石を捜し出す。
2804 彼は、人里離れた所に、縦坑を掘り込み、行きかう人に忘れられ、人から離れてそこにぶら下がり、揺れ動く。
2805 地そのものは、そこから食物を出すが、その下は火のように沸き返っている。
2806 その石はサファイヤの出るもと、そのちりには金がある。
2807 その通り道は猛禽も知らず、はやぶさの目もこれをねらったことがない。
2808 誇り高い獣もこれを踏まず、たける獅子もここを通ったことがない。
2809 彼は堅い岩に手を加え、山々をその基からくつがえす。
2810 彼は岩に坑道を切り開き、その目はすべての宝を見る。
2811 彼は川をせきとめ、したたることもないようにし、隠されている物を明るみに持ち出す。
2812 しかし、知恵はどこから見つけ出されるのか。悟りのある所はどこか。
2813 人はその評価ができない。それは生ける者の地では見つけられない。
2814 深い淵は言う。「私の中にはそれはない。」海は言う。「私のところにはない。」
2815 それは純金をもってしても得られない。銀を量ってもその代価とすることができない。
2816 オフィルの金でもその値踏みをすることができず、高価なしまめのうや、サファイヤでもできない。
2817 金も玻璃もこれと並ぶことができず、純金の器とも、これは取り替えられない。
2818 さんごも水晶も言うに足りない。知恵を獲得するのは真珠にまさる。
2819 クシュのトパーズもこれと並ぶことができず、純金でもその値踏みをすることはできない。
2820 では、知恵はどこから来るのか。悟りのある所はどこか。
2821 それはすべての生き物の目に隠され、空の鳥にもわからない。
2822 滅びの淵も、死も言う。「私たちはそのうわさをこの耳で聞いたことがある。」
2823 しかし、神はその道をわきまえておられ、神はその所を知っておられる。
2824 神は地の隅々まで見渡し、天の下をことごとく見られるからだ。
2825 神は風を重くし、水をはかりで量られる。
2826 神は、雨のためにその降り方を決め、いなびかりのために道を決められた。
2827 そのとき、神は知恵を見て、これを見積もり、これを定めて、調べ上げられた。
2828 こうして、神は人に仰せられた。「見よ。主を恐れること、これが知恵である。悪から離れることは悟りである。」
2901 ヨブはまた、自分の格言を取り上げて言った。
2902 ああ、できれば、私は、昔の月日のようであったらよいのに。神が私を守ってくださった日々のようであったらよいのに。
2903 あのとき、神のともしびが私の頭を照らし、その光によって私はやみを歩いた。
2904 私がまだ壮年であったころ、神は天幕の私に語りかけてくださった。
2905 全能者がまだ私とともにおられたとき、私の子どもたちは、私の回りにいた。
2906 あのとき、私の足跡は乳で洗われ、岩は私に油の流れを注ぎ出してくれたのに。
2907 私は町の門に出て行き、私のすわる所を広場に設けた。
2908 若者たちは私を見て身をひき、年老いた者も起き上がって立った。
2909 つかさたちは黙ってしまい、手を口に当てていた。
2910 首長たちの声もひそまり、その舌は上あごについた。
2911 私について聞いた耳は、私を賞賛し、私を見た目は、それをあかしした。
2912 それは私が、助けを叫び求める貧しい者を助け出し、身寄りのないみなしごを助け出したからだ。
2913 死にかかっている者の祝福が私に届き、やもめの心を私は喜ばせた。
2914 私は義をまとい、義は私をおおった。私の公義は上着であり、かぶり物であった。
2915 私は目の見えない者の目となり、足のなえた者の足となった。
2916 私は貧しい者の父であり、見知らぬ者の訴訟を調べてやった。
2917 私はまた、不正をする者のあごを砕き、その歯の間から獲物を引き抜いた。
2918 そこで私は考えた。私は私の巣とともに息絶えるが、不死鳥のように、私は日をふやそう。
2919 私の根は水に向かって根を張り、夜露が私の枝に宿ろう。
2920 私の栄光は私とともに新しくなり、私の弓は私の手で次々に矢を放つ。
2921 人々は、私に聞き入って待ち、私の意見にも黙っていた。
2922 私が言ったあとでも言い返さず、私の話は彼らの上に降り注いだ。
2923 彼らは雨を待つように私を待ち、後の雨を待つように彼らは口を大きくあけて待った。
2924 私が彼らにほほえみかけても、彼らはそれを信じることができなかった。私の顔の光はかげらなかった。
2925 私は彼らの道を選んでやり、首長として座に着いた。また、王として軍勢とともに住まい、しかも、嘆く者を慰める者のようであった。
3001 しかし今は、私よりも若い者たちが、私をあざ笑う。彼らの父は、私が軽く見て、私の群れの番犬とともにいさせたものだ。
3002 彼らの手の力も私に何の役に立とうか。彼らから気力が消えうせた。
3003 彼らは欠乏とききんでやつれ、荒れ果てた廃墟の暗やみで砂漠をかじる。
3004 彼らはやぶの中のおかひじきを摘み、えにしだの根を彼らの食物とする。
3005 彼らは世間から追い出され、人々は盗人を追うように、彼らに大声で叫ぶ。
3006 彼らは谷の斜面や、土や岩の穴に住み、
3007 やぶの中でつぶやき、いらくさの下に群がる。
3008 彼らはしれ者の子たち、つまらぬ者の子たち、国からむちでたたき出された者たちだ。
3009 それなのに、今や、私は彼らのあざけりの歌となり、その笑いぐさとなっている。
3010 彼らは私を忌みきらって、私から遠ざかり、私の顔に情け容赦もなくつばきを吐きかける。
3011 神が私の綱を解いて、私を悩まされたので、彼らも手綱を私の前に投げ捨てた。
3012 この悪童どもは、私の右手に立ち、私の足をもつれさせ、私に向かって滅びの道を築いた。
3013 彼らは私の通り道をこわし、私の滅びを推し進める。だれも彼らを押し止める者はいない。
3014 彼らは、広い破れ口から入って来るように、あらしの中を押し寄せて来る。
3015 恐怖が私にふりかかり、私の威厳を、あの風のように追い立てる。私の繁栄は雨雲のように過ぎ去った。
3016 今、私は心を自分に注ぐ。悩みの日に私は捕らえられた。
3017 夜は私の骨を私からえぐりとり、私をむしばむものは、休まない。
3018 それは大きな力で、私の着物に姿を変え、まるで長服のように私に巻きついている。
3019 神は私を泥の中に投げ込み、私はちりや灰のようになった。
3020 私はあなたに向かって叫びますが、あなたはお答えになりません。私が立っていても、あなたは私に目を留めてくださいません。
3021 あなたは、私にとって、残酷な方に変わられ、御手の力で、私を攻めたてられます。
3022 あなたは私を吹き上げて風に乗せ、すぐれた知性で、私をきりもみにされます。
3023 私は知っています、あなたは私を死に帰らせ、すべての生き物の集まる家に帰らせることを。
3024 それでも、廃墟の中で人は手を差し伸べないだろうか。その衰えているとき、助けを叫ばないだろうか。
3025 私は不運な人のために泣かなかっただろうか。私のたましいは貧しい者のために悲しまなかっただろうか。
3026 私が善を望んだのに、悪が来、光を待ち望んだのに、暗やみが来た。
3027 私のはらわたは、休みなく煮えたぎる。悩みの日が私に立ち向かっている。
3028 私は、日にも当たらず、泣き悲しんで歩き回り、つどいの中に立って助けを叫び求める。
3029 私はジャッカルの兄弟となり、だちょうの仲間となった。
3030 私の皮膚は黒ずんではげ落ち、骨は熱で焼けている。
3031 私の立琴は喪のためとなり、私の笛は泣き悲しむ声となった。

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