ヨブ記

0101 ウツの地にヨブという名の人がいた。この人は潔白で正しく、神を恐れ、悪から遠ざかっていた。
0102 彼には七人の息子と三人の娘が生まれた。
0103 彼は羊七千頭、らくだ三千頭、牛五百くびき、雌ろば五百頭、それに非常に多くのしもべを持っていた。それでこの人は東の人々の中で一番の富豪であった。
0104 彼の息子たちは互いに行き来し、それぞれ自分の日に、その家で祝宴を開き、人をやって彼らの三人の姉妹も招き、彼らといっしょに飲み食いするのを常としていた。
0105 こうして祝宴の日が一巡すると、ヨブは彼らを呼び寄せ、聖別することにしていた。彼は翌朝早く、彼らひとりひとりのために、それぞれの全焼のいけにえをささげた。ヨブは、「私の息子たちが、あるいは罪を犯し、心の中で神をのろったかもしれない」と思ったからである。ヨブはいつもこのようにしていた。
0106 ある日、神の子らが【主】の前に来て立ったとき、サタンも来てその中にいた。
0107 【主】はサタンに仰せられた。「おまえはどこから来たのか。」サタンは【主】に答えて言った。「地を行き巡り、そこを歩き回って来ました。」
0108 【主】はサタンに仰せられた。「おまえはわたしのしもべヨブに心を留めたか。彼のように潔白で正しく、神を恐れ、悪から遠ざかっている者はひとりも地上にはいないのだが。」
0109 サタンは【主】に答えて言った。「ヨブはいたずらに神を恐れましょうか。
0110 あなたは彼と、その家とそのすべての持ち物との回りに、垣を巡らしたではありませんか。あなたが彼の手のわざを祝福されたので、彼の家畜は地にふえ広がっています。
0111 しかし、あなたの手を伸べ、彼のすべての持ち物を打ってください。彼はきっと、あなたに向かってのろうに違いありません。」
0112 【主】はサタンに仰せられた。「では、彼のすべての持ち物をおまえの手に任せよう。ただ彼の身に手を伸ばしてはならない。」そこで、サタンは【主】の前から出て行った。
0113 ある日、彼の息子、娘たちが、一番上の兄の家で食事をしたり、ぶどう酒を飲んだりしていたとき、
0114 使いがヨブのところに来て言った。「牛が耕し、そのそばで、ろばが草を食べていましたが、
0115 シェバ人が襲いかかり、これを奪い、若い者たちを剣の刃で打ち殺しました。私ひとりだけがのがれて、お知らせするのです。」
0116 この者がまだ話している間に、他のひとりが来て言った。「神の火が天から下り、羊と若い者たちを焼き尽くしました。私ひとりだけがのがれて、お知らせするのです。」
0117 この者がまだ話している間に、また他のひとりが来て言った。「カルデヤ人が三組になって、らくだを襲い、これを奪い、若い者たちを剣の刃で打ち殺しました。私ひとりだけがのがれて、お知らせするのです。」
0118 この者がまだ話している間に、また他のひとりが来て言った。「あなたのご子息や娘さんたちは一番上のお兄さんの家で、食事をしたりぶどう酒を飲んだりしておられました。
0119 そこへ荒野のほうから大風が吹いて来て、家の四隅を打ち、それがお若い方々の上に倒れたので、みなさまは死なれました。私ひとりだけがのがれて、あなたにお知らせするのです。」
0120 このとき、ヨブは立ち上がり、その上着を引き裂き、頭をそり、地にひれ伏して礼拝し、
0121 そして言った。「私は裸で母の胎から出て来た。また、裸で私はかしこに帰ろう。【主】は与え、【主】は取られる。【主】の御名はほむべきかな。」
0122 ヨブはこのようになっても罪を犯さず、神に愚痴をこぼさなかった。
0201 ある日のこと、神の子らが【主】の前に来て立ったとき、サタンもいっしょに来て、【主】の前に立った。
0202 【主】はサタンに仰せられた。「おまえはどこから来たのか。」サタンは【主】に答えて言った。「地を行き巡り、そこを歩き回って来ました。」
0203 【主】はサタンに仰せられた。「おまえはわたしのしもべヨブに心を留めたか。彼のように潔白で正しく、神を恐れ、悪から遠ざかっている者はひとりも地上にはいない。彼はなお、自分の誠実を堅く保っている。おまえは、わたしをそそのかして、何の理由もないのに彼を滅ぼそうとしたが。」
0204 サタンは【主】に答えて言った。「皮の代わりには皮をもってします。人は自分のいのちの代わりには、すべての持ち物を与えるものです。
0205 しかし、今あなたの手を伸べ、彼の骨と肉とを打ってください。彼はきっと、あなたをのろうに違いありません。」
0206 【主】はサタンに仰せられた。「では、彼をおまえの手に任せる。ただ彼のいのちには触れるな。」
0207 サタンは【主】の前から出て行き、ヨブの足の裏から頭の頂まで、悪性の腫物で彼を打った。
0208 ヨブは土器のかけらを取って自分の身をかき、また灰の中にすわった。
0209 すると彼の妻が彼に言った。「それでもなお、あなたは自分の誠実を堅く保つのですか。神をのろって死になさい。」
0210 しかし、彼は彼女に言った。「あなたは愚かな女が言うようなことを言っている。私たちは幸いを神から受けるのだから、わざわいをも受けなければならないではないか。」ヨブはこのようになっても、罪を犯すようなことを口にしなかった。
0211 そのうちに、ヨブの三人の友は、ヨブに降りかかったこのすべてのわざわいのことを聞き、それぞれ自分の所からたずねて来た。すなわち、テマン人エリファズ、シュアハ人ビルダデ、ナアマ人ツォファルである。彼らはヨブに悔やみを言って慰めようと互いに打ち合わせて来た。
0212 彼らは遠くから目を上げて彼を見たが、それがヨブであることが見分けられないほどだった。彼らは声をあげて泣き、おのおの、自分の上着を引き裂き、ちりを天に向かって投げ、自分の頭の上にまき散らした。
0213 こうして、彼らは彼とともに七日七夜、地にすわっていたが、だれも一言も彼に話しかけなかった。彼の痛みがあまりにもひどいのを見たからである。
0301 その後、ヨブは口を開いて自分の生まれた日をのろった。
0302 ヨブは声を出して言った。
0303 私の生まれた日は滅びうせよ。「男の子が胎に宿った」と言ったその夜も。
0304 その日はやみになれ。神もその日を顧みるな。光もその上を照らすな。
0305 やみと暗黒がこれを取り戻し、雲がこの上にとどまれ。昼を暗くするものもそれをおびやかせ。
0306 その夜は、暗やみがこれを奪い取るように。これを年の日のうちで喜ばせるな。月の数のうちにも入れるな。
0307 ああ、その夜は、はらむことのないように。その夜には喜びの声も起こらないように。
0308 日をのろう者、レビヤタンを呼び起こせる者がこれをのろうように。
0309 その夜明けの星は暗くなれ。光を待ち望んでも、それはなく、暁のまぶたのあくのを見ることがないように。
0310 それは、私の母の胎の戸が閉じられず、私の目から苦しみが隠されなかったからだ。
0311 なぜ、私は、胎から出たとき、死ななかったのか。なぜ、私は、生まれ出たとき、息絶えなかったのか。
0312 なぜ、ひざが私を受けたのか。なぜ、私の吸う乳房があったのか。
0313 今ごろ、私は安らかに横になり、眠って休み、
0314 自分たちのためにあの廃墟を築いたこの世の王たち、また議官たち、
0315 あるいは黄金を持ち、自分の家を銀で満たした首長たちといっしょにいたことであろうに。
0316 それとも、私は、ひそかにおろされた流産の子のよう、光を見なかった嬰児のようでなかったのか。
0317 かしこでは、悪者どもはいきりたつのをやめ、かしこでは、力のなえた者はいこい、
0318 捕らわれ人も共に休み、追い使う者の声も聞かない。
0319 かしこでは、下の者も上の者も同じで、奴隷も主人から解き放たれる。
0320 なぜ、苦しむ者に光が与えられ、心の痛んだ者にいのちが与えられるのだろう。
0321 死を待ち望んでも、死は来ない。それを掘り求めても、隠された宝を掘り求めるのにすぎないとは。
0322 彼らは墓を見つけると、なぜ、歓声をあげて喜び、楽しむのだろう。
0323 神が囲いに閉じ込めて、自分の道が隠されている人に、なぜ、光が与えられるのだろう。
0324 実に、私には食物の代わりに嘆きが来て、私のうめき声は水のようにあふれ出る。
0325 私の最も恐れたものが、私を襲い、私のおびえたものが、私の身にふりかかったからだ。
0326 私には安らぎもなく、休みもなく、いこいもなく、心はかき乱されている。

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