1901 そうこうするうちに、ヨアブに、「今、王は泣いて、アブシャロムのために、喪に服しておられる」という報告がされた。
1902 それで、この日の勝利は、すべての民の嘆きとなった。この日、民が、王がその子のために悲しんでいる、ということを聞いたからである。
1903 民はその日、まるで戦場から逃げて恥じている民がこっそり帰るように、町にこっそり帰って来た。
1904 王は顔をおおい、大声で、「わが子アブシャロム。アブシャロムよ。わが子よ。わが子よ」と叫んでいた。
1905 ヨアブは王の家に行き、王に言った。「あなたは、きょう、あなたのいのちと、あなたの息子、娘たちのいのち、それに、あなたの妻やそばめたちのいのちを救ったあなたの家来たち全部に、きょう、恥をかかせました。
1906 あなたは、あなたを憎む者を愛し、あなたを愛する者を憎まれるからです。あなたは、きょう、隊長たちも家来たちも、あなたにとっては取るに足りないことを明らかにされました。今、私は知りました。もしアブシャロムが生き、われわれがみな、きょう死んだのなら、あなたの目にかなったのでしょう。
1907 それで今、立って外に行き、あなたの家来たちに、ねんごろに語ってください。私は【主】によって誓います。あなたが外においでにならなければ、今夜、だれひとりあなたのそばに、とどまらないでしょう。そうなれば、そのわざわいは、あなたの幼いころから今に至るまでにあなたに降りかかった、どんなわざわいよりもひどいでしょう。」
1908 それで、王は立って、門のところにすわった。人々がすべての民に、「見よ。王は門のところにすわっておられる」と知らせたので、すべての民は、王の前にやって来た。一方、イスラエル人は、おのおの自分たちの天幕に逃げ帰っていた。
1909 民はみな、イスラエルの全部族の間で、こう言って争っていた。「王は敵の手から、われわれを救い出してくださった。王はわれわれをペリシテ人の手から助け出してくださった。ところが今、王はアブシャロムのために国外に逃げておられる。
1910 われわれが油をそそいで王としたアブシャロムは、戦いで死んでしまった。それなのに、あなたがたは今、王を連れ戻すために、なぜ何もしないでいるのか。」
1911 ダビデ王は祭司ツァドクとエブヤタルに人をやって言わせた。「ユダの長老たちにこう言って告げなさい。『全イスラエルの言っていることが、ここの家にいる王の耳に届いたのに、あなたがたは、なぜ王をその王宮に連れ戻すのをためらっているのか。
1912 あなたがたは、私の兄弟、私の骨肉だ。それなのに、なぜ王を連れ戻すのをためらっているのか。』
1913 またアマサにも言わなければならない。『あなたは、私の骨肉ではないか。もしあなたが、ヨアブに代わってこれからいつまでも、私の将軍にならないなら、神がこの私を幾重にも罰せられるように。』」
1914 こうしてダビデは、すべてのユダの人々を、あたかもひとりの人の心のように自分になびかせた。ユダの人々は王のもとに人をやって、「あなたも、あなたの家来たちもみな、お帰りください」と言った。
1915 そこで王は帰途につき、ヨルダン川に着くと、ユダの人々は、王を迎えてヨルダン川を渡らせるためにギルガルに来た。
1916 バフリムの出のベニヤミン人、ゲラの子シムイは、ダビデ王を迎えようと、急いでユダの人々といっしょに下って来た。
1917 彼は千人のベニヤミン人を連れていた。サウルの家のしもべツィバも、十五人の息子、二十人の召使いを連れて、王が渡る前にヨルダン川に駆けつけた。
1918 そして彼は、王の家族を渡らせるために渡しを渡って行き、王が喜ぶことをした。ゲラの子シムイも、ヨルダン川を渡って行って、王の前に倒れ伏して、
1919 王に言った。「わが君。どうか私の咎を罰しないでください。王さまが、エルサレムから出て行かれた日に、このしもべが犯した咎を、思い出さないでください。王さま。心に留めないでください。
1920 このしもべは、自分の犯した罪を認めましたから、ご覧のとおり、きょう、ヨセフのすべての家に先立って、王さまを迎えに下ってまいりました。」
1921 ツェルヤの子アビシャイは口をはさんで言った。「シムイは、【主】に油そそがれた方をのろったので、そのために死に値するのではありませんか。」
1922 しかしダビデは言った。「ツェルヤの子らよ。あれは私のことで、あなたがたには、かかわりのないことだ。あなたがたは、きょう、私に敵対しようとでもするのか。きょう、イスラエルのうちで、人が殺されてよいだろうか。私が、きょう、イスラエルの王であることを、私が知らないとでもいうのか。」
1923 そして王はシムイに、「あなたを殺さない」と言って彼に誓った。
1924 サウルの孫メフィボシェテは、王を迎えに下って来た。彼は、王が出て行った日から無事に帰って来た日まで、自分の足の手入れもせず、ひげもそらず、着物も洗っていなかった。
1925 彼が王を迎えにエルサレムから来たとき、王は彼に言った。「メフィボシェテよ。あなたはなぜ、私といっしょに来なかったのか。」
1926 彼は答えた。「王さま。私の家来が、私を欺いたのです。このしもべは『私のろばに鞍をつけ、それに乗って、王といっしょに行こう』と思ったのです。しもべは足のなえた者ですから。
1927 ところが彼は、このしもべのことを、王さまに中傷しました。しかし、王さまは、神の使いのような方です。あなたのお気に召すようにしてください。
1928 私の父の家の者はみな、王さまから見れば、死刑に当たる者に過ぎなかったのですが、あなたは、このしもべをあなたの食卓で食事をする者のうちに入れてくださいました。ですから、この私に、どうして重ねて王さまに訴える権利がありましょう。」
1929 王は彼に言った。「あなたはなぜ、自分の弁解をくり返しているのか。私は決めている。あなたとツィバとで、地所を分けなければならない。」
1930 メフィボシェテは王に言った。「王さまが無事に王宮に帰られて後なら、彼が全部でも取ってよいのです。」
1931 ギルアデ人バルジライは、ログリムから下って、ヨルダン川で王を見送るために、王といっしょにヨルダン川まで進んで来た。
1932 バルジライは非常に年をとっていて八十歳であった。彼は王がマハナイムにいる間、王を養っていた。彼は非常に富んでいたからである。
1933 王はバルジライに言った。「私といっしょに渡って行ってください。エルサレムで私のもとであなたを養いたいのです。」
1934 バルジライは王に言った。「王といっしょにエルサレムへ上って行っても、私はあと何年生きられるでしょう。
1935 私は今、八十歳です。私はもう善悪をわきまえることができません。しもべは食べる物も飲む物も味わうことができません。歌う男や女の声を聞くことさえできません。どうして、このうえ、しもべが王さまの重荷になれましょう。
1936 このしもべは、王とともにヨルダン川を渡って、ほんの少しだけまいりましょう。それ以上、王はどうして、そのような報酬を、この私にしてくださらなければならないのでしょうか。
1937 このしもべを帰らせてください。私は自分の町で、私の父と母の墓の近くで死にたいのです。しかしここに、あなたのしもべキムハムがおります。彼が、王さまといっしょに渡ってまいります。どうか彼に、あなたの良いと思われることをなさってください。」
1938 王は言った。「キムハムは私といっしょに渡って来てよいのです。私は、あなたが良いと思うことを彼にしましょう。あなたが、私にしてもらいたいことは何でも、あなたにしてあげましょう。」
1939 こうして、みなはヨルダン川を渡った。王も渡った。それから、王はバルジライに口づけをして、彼を祝福した。バルジライは自分の町へ帰って行った。
1940 王はギルガルへ進み、キムハムもいっしょに進んだ。ユダのすべての民とイスラエルの民の半分とが、王といっしょに進んだ。
1941 するとそこへ、イスラエルのすべての人が王のところにやって来て、王に言った。「われわれの兄弟、ユダの人々は、なぜ、あなたを奪い去り、王とその家族に、また王といっしょにダビデの部下たちに、ヨルダン川を渡らせたのですか。」
1942 ユダのすべての人々はイスラエルの人々に言い返した。「王は、われわれの身内だからだ。なぜ、このことでそんなに怒るのか。いったい、われわれが王の食物を食べたとでもいうのか。王が何かわれわれに贈り物をしたとでもいうのか。」
1943 イスラエルの人々はユダの人々に答えて言った。「われわれは、王に十の分け前を持っている。だからダビデにも、あなたがたよりも多くを持っているはずだ。それなのに、なぜ、われわれをないがしろにするのか。われわれの王を連れ戻そうと最初に言いだしたのは、われわれではないか。」しかし、ユダの人々のことばは、イスラエルの人々のことばより激しかった。
2001 たまたまそこに、よこしまな者で、名をシェバという者がいた。彼はベニヤミン人ビクリの子であった。彼は角笛を吹き鳴らして言った。「ダビデには、われわれのための割り当て地がない。エッサイの子には、われわれのためのゆずりの地がない。イスラエルよ。おのおの自分の天幕に帰れ。」
2002 そのため、すべてのイスラエル人は、ダビデから離れて、ビクリの子シェバに従って行った。しかし、ユダの人々はヨルダン川からエルサレムまで、自分たちの王につき従って行った。
2003 ダビデはエルサレムの自分の王宮に入った。王は、王宮の留守番に残しておいた十人のそばめをとり、監視つきの家を与えて養ったが、王は彼女たちのところには通わなかった。それで彼女たちは、一生、やもめとなって、死ぬ日まで閉じ込められていた。
2004 さて、王はアマサに言った。「私のために、ユダの人々を三日のうちに召集し、あなたも、ここに帰って来なさい。」
2005 そこでアマサは、ユダの人々を召集するために出て行ったが、指定された期限に間に合わなかった。
2006 ダビデはアビシャイに言った。「今や、ビクリの子シェバは、アブシャロムよりも、もっとひどいわざわいを、われわれにしかけるに違いない。あなたは、私の家来を引き連れて彼を追いなさい。でないと彼は城壁のある町に入って、のがれてしまうだろう。」
2007 それで、ヨアブの部下と、ケレテ人と、ペレテ人と、すべての勇士たちとは、アビシャイのあとに続いて出て行った。彼らはエルサレムを出て、ビクリの子シェバのあとを追った。
2008 彼らがギブオンにある大きな石のそばに来たとき、アマサが彼らの前にやって来た。ヨアブは自分のよろいを身に着け、さやに納めた剣を腰の上に帯で結びつけていた。彼が進み出ると、剣が落ちた。
2009 ヨアブはアマサに、「兄弟。おまえは元気か」と言って、アマサに口づけしようとして、右手でアマサのひげをつかんだ。
2010 アマサはヨアブの手にある剣に気をつけていなかった。ヨアブが彼の下腹を刺したので、はらわたが地面に流れ出た。この一突きでアマサは死んだ。それからヨアブとその兄弟アビシャイは、ビクリの子シェバのあとを追った。
2011 そのとき、ヨアブに仕える若い者のひとりがアマサのそばに立って言った。「ヨアブにつく者、ダビデに味方する者は、ヨアブに従え。」
2012 アマサは大路の真ん中で、血まみれになってころがっていた。この若い者は、民がみな立ち止まるのを見て、アマサを大路から野原に運んだ。そのかたわらを通る者がみな、立ち止まるのを見ると、彼の上に着物を掛けた。
2013 アマサが大路から移されると、みなヨアブのあとについて進み、ビクリの子シェバを追った。
2014 シェバはイスラエルの全部族のうちを通って、アベル・ベテ・マアカへ行った。すべてのベリ人は集まって来て、彼に従った。
2015 しかし、人々はアベル・ベテ・マアカに来て、彼を包囲し、この町に向かって塁を築いた。それは外壁に向かって立てられた。ヨアブにつく民はみな、城壁を破壊して倒そうとしていた。
2016 そのとき、この町から、ひとりの知恵のある女が叫んだ。「聞いてください。聞いてください。ヨアブにこう言ってください。ここまで近づいてください。あなたにお話ししたいのです。」
2017 ヨアブが彼女のほうに近づくと、この女は、「あなたがヨアブですか」と尋ねた。彼は答えた。「そうだ。」すると女は言った。「このはしためのことばを聞いてください。」彼は答えた。「私が聞こう。」
2018 すると女はこう言った。「昔、人々は『アベルで尋ねてみなければならない』と言って、事を決めるのがならわしでした。
2019 私は、イスラエルのうちで平和な、忠実な者のひとりです。あなたは、イスラエルの母である町を滅ぼそうとしておられます。あなたはなぜ、【主】のゆずりの地を、のみ尽くそうとされるのですか。」
2020 ヨアブは答えて言った。「絶対にそんなことはない。のみ尽くしたり、滅ぼしたりするなど、とてもできないことだ。
2021 そうではない。実はビクリの子で、その名をシェバというエフライムの山地の出の男が、ダビデ王にそむいたのだ。この男だけを引き渡してくれたら、私はこの町から引き揚げよう。」するとこの女はヨアブに言った。「では、その男の首を城壁の上からあなたのところに投げ落としてごらんにいれます。」
2022 この女はその知恵を用いてすべての民のところに行った。それで彼らはビクリの子シェバの首をはね、それをヨアブのもとに投げた。ヨアブが角笛を吹き鳴らしたので、人々は町から散って行って、めいめい自分の天幕へ帰った。ヨアブはエルサレムの王のところに戻った。
2023 さて、ヨアブはイスラエルの全軍の長であった。エホヤダの子ベナヤはケレテ人とペレテ人の長。
2024 アドラムは役務長官。アヒルデの子ヨシャパテは参議。
2025 シェワは書記。ツァドクとエブヤタルは祭司。
2026 ヤイル人イラもダビデの祭司であった。
2101 ダビデの時代に、三年間引き続いてききんがあった。そこでダビデが【主】のみこころを伺うと、【主】は仰せられた。「サウルとその一族に、血を流した罪がある。彼がギブオン人たちを殺したからだ。」
2102 そこで王はギブオン人たちを呼び出して、彼らに言った。──ギブオンの人たちはイスラエル人ではなく、エモリ人の生き残りであって、イスラエル人は、彼らと盟約を結んでいたのであるが、サウルが、イスラエルとユダの人々への熱心のあまり、彼らを打ち殺してしまおうとしたのであった。──
2103 ダビデはギブオン人たちに言った。「あなたがたのために、私は何をしなければならないのか。私が何を償ったら、あなたがたは【主】のゆずりの地を祝福できるのか。」
2104 ギブオン人たちは彼に言った。「私たちとサウル、およびその一族との間の問題は、銀や金のことではありません。また私たちがイスラエルのうちで、人を殺すことでもありません。」そこでダビデが言った。「それでは私があなたがたに何をしたらよいと言うのか。」
2105 彼らは王に言った。「私たちを絶ち滅ぼそうとした者、私たちを滅ぼしてイスラエルの領土のどこにも、おらせないようにたくらんだ者、
2106 その者の子ども七人を、私たちに引き渡してください。私たちは、【主】の選ばれたサウルのギブアで、【主】のために、彼らをさらし者にします。」王は言った。「引き渡そう。」
2107 しかし王は、サウルの子ヨナタンの子メフィボシェテを惜しんだ。それは、ダビデとサウルの子ヨナタンとの間で【主】に誓った誓いのためであった。
2108 王は、アヤの娘リツパがサウルに産んだふたりの子アルモニとメフィボシェテ、それに、サウルの娘メラブがメホラ人バルジライの子アデリエルに産んだ五人の子を取って、
2109 彼らをギブオン人の手に渡した。それで彼らは、この者たちを山の上で【主】の前に、さらし者にした。これら七人はいっしょに殺された。彼らは、刈り入れ時の初め、大麦の刈り入れの始まったころ、死刑に処せられた。
2110 アヤの娘リツパは、荒布を脱いで、それを岩の上に敷いてすわり、刈り入れの始まりから雨が天から彼らの上に降るときまで、昼には空の鳥が、夜には野の獣が死体に近寄らないようにした。
2111 サウルのそばめアヤの娘リツパのしたことはダビデに知らされた。
2112 すると、ダビデは行って、サウルの骨とその子ヨナタンの骨を、ヤベシュ・ギルアデの者たちのところから取って来た。これは、ペリシテ人がサウルをギルボアで殺した日に、ペリシテ人が彼らをさらしたベテ・シャンの広場から、彼らが盗んで行ったものであった。
2113 ダビデがサウルの骨とその子ヨナタンの骨をそこから携えて上ると、人々は、さらし者にされた者たちの骨を集めた。
2114 こうして、彼らはサウルとその子ヨナタンの骨を、ベニヤミンの地のツェラにあるサウルの父キシュの墓に葬り、すべて王が命じたとおりにした。その後、神はこの国の祈りに心を動かされた。
2115 ペリシテ人はまた、イスラエルに戦いをしかけた。ダビデは自分の家来たちを連れて下り、ペリシテ人と戦ったが、ダビデは疲れていた。
2116 それで、ラファの子孫のひとりであったイシュビ・ベノブは、ダビデを殺そうと考えた。彼の槍の重さは青銅で三百シェケル。そして彼は新しい剣を帯びていた。
2117 しかし、ツェルヤの子アビシャイはダビデを助け、このペリシテ人を打ち殺した。そのとき、ダビデの部下たちは彼に誓って言った。「あなたは、もうこれから、われわれといっしょに、戦いに出ないでください。あなたがイスラエルのともしびを消さないために。」
2118 その後、ゴブでまたペリシテ人との戦いがあり、そのとき、フシャ人シベカイは、ラファの子孫のサフを打ち殺した。
2119 ゴブでまたペリシテ人との戦いがあったとき、ベツレヘム人ヤイルの子エルハナンは、ガテ人ゴリヤテの兄弟ラフミを打ち殺した。ラフミの槍の柄は、機織りの巻き棒のようであった。
2120 さらにガテで戦いがあったとき、そこに、手の指、足の指が六本ずつで、合計二十四本指の闘士がいた。彼もまた、ラファの子孫であった。
2121 彼はイスラエルをそしったが、ダビデの兄弟シムアの子ヨナタンが彼を打ち殺した。
2122 これら四人はガテのラファの子孫で、ダビデとその家来たちの手にかかって倒れた。