0401 さて、イエスは、悪魔の試みを受けるため、御霊に導かれて荒野に上って行かれた。
0402 そして、四十日四十夜断食したあとで、空腹を覚えられた。
0403 すると、試みる者が近づいて来て言った。「あなたが神の子なら、この石がパンになるように、命じなさい。」
0404 イエスは答えて言われた。「『人はパンだけで生きるのではなく、神の口から出る一つ一つのことばによる』と書いてある。」
0405 すると、悪魔はイエスを聖なる都に連れて行き、神殿の頂に立たせて、
0406 言った。「あなたが神の子なら、下に身を投げてみなさい。『神は御使いたちに命じて、その手にあなたをささえさせ、あなたの足が石に打ち当たることのないようにされる』と書いてありますから。」
0407 イエスは言われた。「『あなたの神である主を試みてはならない』とも書いてある。」
0408 今度は悪魔は、イエスを非常に高い山に連れて行き、この世のすべての国々とその栄華を見せて、
0409 言った。「もしひれ伏して私を拝むなら、これを全部あなたに差し上げましょう。」
0410 イエスは言われた。「引き下がれ、サタン。『あなたの神である主を拝み、主にだけ仕えよ』と書いてある。」
0411 すると悪魔はイエスを離れて行き、見よ、御使いたちが近づいて来て仕えた。
0412 ヨハネが捕らえられたと聞いてイエスは、ガリラヤへ立ちのかれた。
0413 そしてナザレを去って、カペナウムに来て住まわれた。ゼブルンとナフタリとの境にある、湖のほとりの町である。
0414 これは、預言者イザヤを通して言われた事が、成就するためであった。すなわち、
0415 「ゼブルンの地とナフタリの地、湖に向かう道、ヨルダンの向こう岸、異邦人のガリラヤ。
0416 暗やみの中にすわっていた民は偉大な光を見、死の地と死の陰にすわっていた人々に、光が上った。」
0417 この時から、イエスは宣教を開始して、言われた。「悔い改めなさい。天の御国が近づいたから。」
0418 イエスがガリラヤ湖のほとりを歩いておられたとき、ふたりの兄弟、ペテロと呼ばれるシモンとその兄弟アンデレをご覧になった。彼らは湖で網を打っていた。漁師だったからである。
0419 イエスは彼らに言われた。「わたしについて来なさい。あなたがたを、人間をとる漁師にしてあげよう。」
0420 彼らはすぐに網を捨てて従った。
0421 そこからなお行かれると、イエスは、別のふたりの兄弟、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネが、父ゼベダイといっしょに舟の中で網を繕っているのをご覧になり、ふたりをお呼びになった。
0422 彼らはすぐに舟も父も残してイエスに従った。
0423 イエスはガリラヤ全土を巡って、会堂で教え、御国の福音を宣べ伝え、民の中のあらゆる病気、あらゆるわずらいを直された。
0424 イエスのうわさはシリヤ全体に広まった。それで人々は、さまざまな病気や痛みに苦しむ病人、悪霊につかれた人、てんかんの人、中風の人などをみな、みもとに連れて来た。イエスは彼らをいやされた。
0425 こうしてガリラヤ、デカポリス、エルサレム、ユダヤおよびヨルダンの向こう岸から大ぜいの群衆がイエスにつき従った。
0501 この群衆を見て、イエスは山に登り、おすわりになると、弟子たちがみもとに来た。
0502 そこで、イエスは口を開き、彼らに教えて、言われた。
0503 「心の貧しい者は幸いです。天の御国はその人たちのものだから。
0504 悲しむ者は幸いです。その人たちは慰められるから。
0505 柔和な者は幸いです。その人たちは地を受け継ぐから。
0506 義に飢え渇く者は幸いです。その人たちは満ち足りるから。
0507 あわれみ深い者は幸いです。その人たちはあわれみを受けるから。
0508 心のきよい者は幸いです。その人たちは神を見るから。
0509 平和をつくる者は幸いです。その人たちは神の子どもと呼ばれるから。
0510 義のために迫害されている者は幸いです。天の御国はその人たちのものだから。
0511 わたしのために人々があなたがたをののしり、迫害し、ありもしないことで悪口を浴びせるとき、あなたがたは幸いです。
0512 喜びなさい。喜びおどりなさい。天ではあなたがたの報いは大きいから。あなたがたより前にいた預言者たちを、人々はそのように迫害したのです。
0513 あなたがたは、地の塩です。もし塩が塩けをなくしたら、何によって塩けをつけるのでしょう。もう何の役にも立たず、外に捨てられて、人々に踏みつけられるだけです。
0514 あなたがたは、世界の光です。山の上にある町は隠れる事ができません。
0515 また、あかりをつけて、それを枡の下に置く者はありません。燭台の上に置きます。そうすれば、家にいる人々全部を照らします。
0516 このように、あなたがたの光を人々の前で輝かせ、人々があなたがたの良い行いを見て、天におられるあなたがたの父をあがめるようにしなさい。
0517 わたしが来たのは律法や預言者を廃棄するためだと思ってはなりません。廃棄するためにではなく、成就するために来たのです。
0518 まことに、あなたがたに告げます。天地が滅びうせない限り、律法の中の一点一画でも決してすたれることはありません。全部が成就されます。
0519 だから、戒めのうち最も小さいものの一つでも、これを破ったり、また破るように人に教えたりする者は、天の御国で、最も小さい者と呼ばれます。しかし、それを守り、また守るように教える者は、天の御国で、偉大な者と呼ばれます。
0520 まことに、あなたがたに告げます。もしあなたがたの義が、律法学者やパリサイ人の義にまさるものでないなら、あなたがたは決して天の御国に、入れません。
0521 昔の人々に、『人を殺してはならない。人を殺す者はさばきを受けなければならない』と言われたのを、あなたがたは聞いています。
0522 しかし、わたしはあなたがたに言います。兄弟に向かって腹を立てる者は、だれでもさばきを受けなければなりません。兄弟に向かって『能なし』と言うような者は、最高議会に引き渡されます。また、『ばか者』と言うような者は燃えるゲヘナに投げ込まれます。
0523 だから、祭壇の上に供え物をささげようとしているとき、もし兄弟に恨まれていることをそこで思い出したなら、
0524 供え物はそこに、祭壇の前に置いたままにして、出て行って、まずあなたの兄弟と仲直りをしなさい。それから、来て、その供え物をささげなさい。
0525 あなたを告訴する者とは、あなたが彼といっしょに途中にある間に早く仲良くなりなさい。そうでないと、告訴する者は、あなたを裁判官に引き渡し、裁判官は下役に引き渡して、あなたはついに牢に入れられることになります。
0526 まことに、あなたに告げます。あなたは最後の一コドラントを支払うまでは、そこから出ては来られません。
0527 『姦淫してはならない』と言われたのを、あなたがたは聞いています。
0528 しかし、わたしはあなたがたに言います。だれでも情欲をいだいて女を見る者は、すでに心の中で姦淫を犯したのです。
0529 もし、右の目が、あなたをつまずかせるなら、えぐり出して、捨ててしまいなさい。からだの一部を失っても、からだ全体ゲヘナに投げ込まれるよりは、よいからです。
0530 もし、右の手があなたをつまずかせるなら、切って、捨ててしまいなさい。からだの一部を失っても、からだ全体ゲヘナに落ちるよりは、よいからです。
0531 また『だれでも、妻を離別する者は、妻に離婚状を与えよ』と言われています。
0532 しかし、わたしはあなたがたに言います。だれであっても、不貞以外の理由で妻を離別する者は、妻に姦淫を犯させるのです。また、だれでも、離別された女と結婚すれば、姦淫を犯すのです。
0533 さらにまた、昔の人々に、『偽りの誓いを立ててはならない。あなたの誓ったことを主に果たせ』と言われていたのを、あなたがたは聞いています。
0534 しかし、わたしはあなたがたに言います。決して誓ってはいけません。すなわち、天をさして誓ってはいけません。そこは神の御座だからです。
0535 地をさして誓ってもいけません。そこは神の足台だからです。エルサレムをさして誓ってもいけません。そこは偉大な王の都だからです。
0536 あなたの頭をさして誓ってもいけません。あなたは、一本の髪の毛すら、白くも黒くもできないからです。
0537 だから、あなたがたは、『はい』は『はい』、『いいえ』は『いいえ』とだけ言いなさい。それ以上のことは悪いことです。
0538 『目には目で、歯には歯で』と言われたのを、あなたがたは聞いています。
0539 しかし、わたしはあなたがたに言います。悪い者に手向かってはいけません。あなたの右の頬を打つような者には、左の頬も向けなさい。
0540 あなたを告訴して下着を取ろうとする者には、上着もやりなさい。
0541 あなたに一ミリオン行けと強いるような者とは、いっしょに二ミリオン行きなさい。
0542 求める者には与え、借りようとする者は断らないようにしなさい。
0543 『自分の隣人を愛し、自分の敵を憎め』と言われたのを、あなたがたは聞いています。
0544 しかし、わたしはあなたがたに言います。自分の敵を愛し、迫害する者のために祈りなさい。
0545 それでこそ、天におられるあなたがたの父の子どもになれるのです。天の父は、悪い人にも良い人にも太陽を上らせ、正しい人にも正しくない人にも雨を降らせてくださるからです。
0546 自分を愛してくれる者を愛したからといって、何の報いが受けられるでしょう。取税人でも、同じことをしているではありませんか。
0547 また、自分の兄弟にだけあいさつしたからといって、どれだけまさったことをしたのでしょう。異邦人でも同じことをするではありませんか。
0548 だから、あなたがたは、天の父が完全なように、完全でありなさい。
0601 人に見せるために人前で善行をしないように気をつけなさい。そうでないと、天におられるあなたがたの父から、報いが受けられません。
0602 だから、施しをするときには、人にほめられたくて会堂や通りで施しをする偽善者たちのように、自分の前でラッパを吹いてはいけません。まことに、あなたがたに告げます。彼らはすでに自分の報いを受け取っているのです。
0603 あなたは、施しをするとき、右の手のしていることを左の手に知られないようにしなさい。
0604 あなたの施しが隠れているためです。そうすれば、隠れた所で見ておられるあなたの父が、あなたに報いてくださいます。
0605 また、祈るときには、偽善者たちのようであってはいけません。彼らは、人に見られたくて会堂や通りの四つ角に立って祈るのが好きだからです。まことに、あなたがたに告げます。彼らはすでに自分の報いを受け取っているのです。
0606 あなたは、祈るときには自分の奥まった部屋に入りなさい。そして、戸をしめて、隠れた所におられるあなたの父に祈りなさい。そうすれば、隠れた所で見ておられるあなたの父が、あなたに報いてくださいます。
0607 また、祈るとき、異邦人のように同じことばを、ただくり返してはいけません。彼らはことば数が多ければ聞かれると思っているのです。
0608 だから、彼らのまねをしてはいけません。あなたがたの父なる神は、あなたがたがお願いする先に、あなたがたに必要なものを知っておられるからです。
0609 だから、こう祈りなさい。『天にいます私たちの父よ。御名があがめられますように。
0610 御国が来ますように。みこころが天で行われるように地でも行われますように。
0611 私たちの日ごとの糧をきょうもお与えください。
0612 私たちの負いめをお赦しください。私たちも、私たちに負いめのある人たちを赦しました。
0613 私たちを試みに会わせないで、悪からお救いください。』〔国と力と栄えは、とこしえにあなたのものだからです。アーメン。〕
0614 もし人の罪を赦すなら、あなたがたの天の父もあなたがたを赦してくださいます。
0615 しかし、人を赦さないなら、あなたがたの父もあなたがたの罪をお赦しになりません。
0616 断食するときには、偽善者たちのようにやつれた顔つきをしてはいけません。彼らは、断食していることが人に見えるようにと、その顔をやつすのです。まことに、あなたがたに告げます。彼らはすでに自分の報いを受け取っているのです。
0617 しかし、あなたが断食するときには、自分の頭に油を塗り、顔を洗いなさい。
0618 それは、断食していることが、人には見られないで、隠れた所におられるあなたの父に見られるためです。そうすれば、隠れた所で見ておられるあなたの父が報いてくださいます。
0619 自分の宝を地上にたくわえるのはやめなさい。そこでは虫とさびで、きず物になり、また盗人が穴をあけて盗みます。
0620 自分の宝は、天にたくわえなさい。そこでは、虫もさびもつかず、盗人が穴をあけて盗むこともありません。
0621 あなたの宝のあるところに、あなたの心もあるからです。
0622 からだのあかりは目です。それで、もしあなたの目が健全なら、あなたの全身が明るいが、
0623 もし、目が悪ければ、あなたの全身が暗いでしょう。それなら、もしあなたのうちの光が暗ければ、その暗さはどんなでしょう。
0624 だれも、ふたりの主人に仕えることはできません。一方を憎んで他方を愛したり、一方を重んじて他方を軽んじたりするからです。あなたがたは、神にも仕え、また富にも仕えるということはできません。
0625 だから、わたしはあなたがたに言います。自分のいのちのことで、何を食べようか、何を飲もうかと心配したり、また、からだのことで、何を着ようかと心配したりしてはいけません。いのちは食べ物よりたいせつなもの、からだは着物よりたいせつなものではありませんか。
0626 空の鳥を見なさい。種蒔きもせず、刈り入れもせず、倉に納めることもしません。けれども、あなたがたの天の父がこれを養っていてくださるのです。あなたがたは、鳥よりも、もっとすぐれたものではありませんか。
0627 あなたがたのうちだれが、心配したからといって、自分のいのちを少しでも延ばすことができますか。
0628 なぜ着物のことで心配するのですか。野のゆりがどうして育つのか、よくわきまえなさい。働きもせず、紡ぎもしません。
0629 しかし、わたしはあなたがたに言います。栄華を窮めたソロモンでさえ、このような花の一つほどにも着飾ってはいませんでした。
0630 きょうあっても、あすは炉に投げ込まれる野の草さえ、神はこれほどに装ってくださるのだから、ましてあなたがたに、よくしてくださらないわけがありましょうか。信仰の薄い人たち。
0631 そういうわけだから、何を食べるか、何を飲むか、何を着るか、などと言って心配するのはやめなさい。
0632 こういうものはみな、異邦人が切に求めているものなのです。しかし、あなたがたの天の父は、それがみなあなたがたに必要であることを知っておられます。
0633 だから、神の国とその義とをまず 一に求めなさい。そうすれば、それに加えて、これらのものはすべて与えられます。
0634 だから、あすのための心配は無用です。あすのことはあすが心配します。労苦はその日その日に、十分あります。